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世界的な著名人の文字から、道ばたで拾った名もなき字まで。
くせ字蒐集家の井原奈津子氏が採取した、
めくるめく「くせ字」の世界を紹介する書籍
『美しい日本のくせ字』が2017年5月下旬に発売となります。
こんな字を書く人は、いったいどんな人なのか?
想像しながらお楽しみください!


#011
事務員Gさんの字
見えない水平線が見える

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 ツイッターで「くせ字」という言葉を検索すると、出て来るのは「みるみるくせ字が直る」という美文字本の宣伝、「くせ字を直したい」という嘆き、「先生の字がくせ字すぎるんだが」という愚痴など。そんななか、自分の字の写真に「くせ字です」とコメントをつけたものがある。たいていが謙遜で、むしろキレイでかわいい。またまた〜。
 ある日の検索でも、「私はくせ字です」ツイートが出て来た。いつもの褒めてツイートかと思いきや、目に飛び込んで来たのは、あっと驚く、まさに「くせ字」。見えない水平線が見えるのだ。引かれていないはずのまっすぐな線がそこにある。前後のツイートを探ると「定規を当てて書いています」とのこと。なるほど。こんな字は初めて見た。
 この字を書いた、ピアノ奏者の「事務員Gさん」に話を聞いた。「字が下手でコンプレックスだったんですよ」と言う。「会社で事務員をしていたのですが、1センチメートルの高さもないところに3行の字を書く仕事があって、小さい字で見やすく書く必要があったんです。上司がこういう字を書いていて、マネをしました」とのこと。「彼女の字と僕の字をほかの社員が見間違えるくらいに似せようと、がんばってました」。
 ところで、このように「他人の筆跡をマネすること」は、千年以上も昔から行われて来たことだ。他人の筆跡をマネする、すなわち「手本を見て書くこと」を、書道の世界では臨書といい、おもな学習方法になっている。日本では奈良時代に光明皇后が王羲之を臨書しているし、もちろん現在、学校の習字の授業で、教科書を見て書いているのもそれである。人が文字に、情報を伝えるという実用だけでなく美しさを求め、自分も美しい字を書きたくなり、そして「美しいと思う字をマネして書きたい」と思うことは、古来、臨書が行われて来た歴史をみるまでもなく、ごく自然だと思う。事務員Gさんが上司の字をマネしたのもしかり。

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『楽毅論』(王羲之)


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光明皇后(奈良時代)による『楽毅論』の臨書

 Gさんの字を見て千年以上前に思いをはせた著者。そして縦書き・横書きについて考察はつづく……。
詳しくは本編にて!


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有名人の字から道端で拾った字まで。くせ字から日本が見える!
『美しい日本のくせ字』
2017年5月下旬発売!

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Profile
井原奈津子
くせ字愛好家。1973年、神奈川県生まれ。
多摩美術大学卒業後、主にエディトリアルデザインに関わる。
現在は筆耕、習字の指導などを行う。
「くせ字練習会」など手書き文字のワークショップも開催。