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第三回目
想像力の邪魔を
 しないでいただきたい
その1

──えっと『絵を描いたらいくらもらえるんですか?』というのが、予告してた今回の内容ですが。

寺田 1枚の値段ということで答えれば、ズバリ0円から100万円くらいですね。

──全然ズバリじゃないし! そして、そんなに差が!?

寺田 ズバリ、差がありますね。
 といっても、ポストイットくらいのサイズで描いて100万円ってのは、バブル時代の広告業界では漏れ聞いたことはありますが、普通ないし、オレもない。
 サイズも使用目的も無視して、オレがいただいたことのある金額だけ出せばそうなりますよってことです。
 あと100万円もらったとしても、それが10年に1度だったら年収10万円ですし、この手の話には注意が必要ですよね。

──詐欺話じゃないんだから…。

寺田 以上です。

──え! 終わり?

寺田 詳細はまたいずれやりましょう! さしさわりがないソフトなカンジで!
 現状はたまたまですけど絵で食えることはできてますね。

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──…わかりました。じゃあ、寺田さんが「たまたま絵で食べることができている」のはどうしてでしょう?

寺田 それを言えば、ほとんどの人がたまたまその仕事をしているってことじゃないかなー。オレは子供の頃から絵の仕事で生きていく! って決めてましたけど、別に決意したからってうまくいく保証もないわけで、今フリーでやって30年ほどですけど「たまたま感」がすごくあります。

 ちょっと脇道っぽいですけど、たとえばですね。
「ホントはこの仕事向いてない」とか、「この仕事じゃオレには役不足」とか、周りが自分にアジャストしてくれるのをどこかで期待してたりとかあるでしょ。オレがハマる場所はどこかにきっとある! みたいな。子供の頃は特にそうですよね。子供の頃は生活が窮屈でしょ?

──世界が学校と家だけですからね。

寺田 自活できてないって時点で窮屈なので、周りはそんなつもりなくても、決められた枠の中でうまく適合しないと、ものすごく窮屈で居場所がなくなっていくわけですよね。でも、若いといろいろな感情を分類できてないから、自分がなんでこんな状況で、こんな気持ちでいるのかっていうこともわからないじゃないですか。
 昔から青春時代はモヤモヤなわけですけど、そのモヤモヤを「それはこういうことだよ」って指摘してくれる言葉は、人とのコミュニケーションか、本で読むとかしか昔はなかった。その中に答えがない場合はずっと煩悶するわけです。「なんだこのモヤモヤはっ!?」って。なんでだろって思えればまだいいけど、思えない人はひたすら苛立っていく。

──青春時代現役のときに、イライラの原因がわかることってあんまりないかもしれないですね。大人になって振り返ってあれこれ理由をつけるんですが。

寺田 だからオレは空想的なものに走った。現実世界の中の休憩所としてですよね。オレが子供のときに「スペースオペラ」っていう宇宙を舞台にした冒険活劇みたいなジャンルがあったんですよ。その代表格としては、エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』という、日本でも一回アニメになった作品が早川文庫から出てたんです。それを初めて読んだのがオレが小学3年生のとき。

 うちの親父の同僚で砂場の兄ちゃんという人がオレと兄貴を連れて岡山の田舎にある車のレース場に連れて行ってくれたんだけど、オレは車にまったく興味がなかったんで、観覧席の鉄製の椅子が痛かったって記憶しかない。子供の頃オレは痩せてたんで、尻の肉が薄くて座ってると痛くて痛くて、車はフォーーーンと通り過ぎるだけだし、エンジン音に心焦がされた! みたいなのも皆無だった。
 帰り道は岡山市内を通って帰るんですけど、オレがつまんなそうにしてたのを砂場の兄ちゃんが気づいていたのかもしれなくて、このままだとかわいそうと思ったのか、岡山で一番大きな紀伊国屋書店に寄ってね、オレと兄貴に「好きな本買ってあげる」って言ってくれたんですよ。
 その頃小学3年生だから、お小遣いも50円とか10円しか持ってないわけで、本なんて自分じゃ買えないし、「やったー! 本買ってくれるんだ!」と思ってね。それで、一階の文庫本コーナーにあった『キャプテン・フューチャー』に目がいくんです。それは何故かというと、表紙の水野良太郎さんのアメコミタッチの絵を見て、「なんだこれ!」って思ったからですよ。これがいい絵なんです。

 でね、そのシリーズの『脅威! 不死密売団』ってのが出たばかりで平台にあって、「コレがいい!」って買ってもらったんです。これは文庫本で漢字にルビ(ふりがな)も振ってないし、砂場の兄ちゃんに「読めるの?」って言われたんだけど、「読めいでか!」と。その頃すでに本は結構読んでたし、活劇モノに出てくる漢字なんてそんなに難しいものはないし。国語と図工の点数だけは良かったんだよオレは。体育は1とかでしたよ。

──体育が1。運動ダメだったんですねえ。でも欲しい本がマンガとか、絵方向じゃなかったんですね。

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寺田 もちろんマンガも好きでしたけど、最初に目に入ったのが『キャプテン・フューチャー』だった。で、読んだら超面白いんですよ!
 その頃手塚治虫とかを『ジャンプ』で読んだり、『ウルトラシリーズ』が放映されてて、SF的なものが世の中にあるな、好きだなとは思ってたんです。
 でも、体系立てては知らないから、自分が好きなものがなんなのかっていうのはよくわからないわけです。
 当時は「少年少女のための空想科学小説」みたいなものを図書館で読んでたりしていたわけです。でも、子供向けのものってひらがなが多いし、それはすでにワタシの背伸び心が許さないんですよ。

──子供ながらに。

寺田 子供だからです! 子供は背伸びするもんだ!
 テレビはもちろん好きだったけど、『ウルトラセブン』は別として、他のものは子供じみたところがあって、作ってる側にも子供向けという気持ちがどこかにあったりするのが、だんだん増えていく時代なんですね。フォーマットができてくるっていうかさ。
『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の頃はフォーマットがないから、大人が見ても面白いってものを作ってたけど、だんだん「子供向けに受ける」って方向に腐心してるように見えて、ぬるい! と嫌がったわけです。背伸びしたがりだから。とはいえ、『キャプテン・フューチャー』の内容も大変子供向きみたいなもんだったんですけどね。でも文庫本で活字、ってところがポイントでしたね。ちなみにシリーズを翻訳されてた野田昌宏さんは、『ひらけ! ポンキッキ』とか作っていた会社の社長さんで、ガチャピンのモデルにもなった方で。

──ガチャピンの!

寺田 そうなんですよ!『キャプテン・フューチャー』が好きで好きでしょうがなくて日本に紹介したのが、野田さんです。また、野田さんの翻訳っていうのが、ちょっとべらんめえ調でカッコイイ。それがドライブ感を生んで、生き生きとした活劇になってたんです。それに一発でやられたんですね。
 野田さんのおかげで大人の読み物になっていた。
 内容的には、太陽系の惑星には火星人、金星人が普通にいる世界観で、コメット号っていう愛機を駆って、主人公たちが宇宙の脅威に立ち向かうわけですけど、このコメット号は涙の形をした宇宙船で、飛ぶと彗星みたいに見えるから、コメット号って名前がついたんですよカッケェェーー!!

──なるほど。

寺田 落ち着いてるなー。まあ、そういう物語が文章で存在するって知らなかったんですよ。今まではテレビやマンガでSFっぽいものを見ていたから。余談ですがテレビでは『宇宙大作戦』が放映されてて、それはすげえ好きだったんです。『宇宙大作戦』は『スター・トレック』の邦題だけど、はっきり言ってオレの体の6割くらいは『宇宙大作戦』でできてます!

──『スター・トレック』って昔はそんなタイトルだったんですかー!

寺田 そこか。オレの中ではいまだに『スター・トレック』じゃなくて『宇宙大作戦』です!!
 それで話を戻すと『キャプテン・フューチャー』を文章で読んだとき、異様に興奮したんですよ。

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──なんでですか?

寺田 なんでかというと当時テレビでやってた特撮技術は今みたいなCGもないので手作り感満載で、子供ながらにわかるモノが多いんですよ。時々すごく良くできてるのがあって「本当かな!」って思ったりするけど、だいたいの作り物は作り物に見えちゃうし、ミニチュアが壊れて燃えてたりするし、デカい怪獣には人が入ってる。そういうものをどっかで言い訳しながら見てるんですよ。

──気づいてるけど、それもあわせて楽しもうみたいな感じですか。

寺田 そこまで大人じゃないんだけど、当時はそういうものを作る苦労を知らないので、「なんか安っぽいなー」とか平気で思うわけ。でも! 文字で、小説でそういうものを読むと安っぽくないんですよ。安っぽいものでも。
 文字で読むと、すごいモンスターが現れたら、それはすごいモンスターなんですよ! 言葉のイメージがすごく心に響きまして、想像しきれるわけじゃないけど、しきれないところにまた想像の余地が出てきて「すごい!」って書かれてれば、それはすごいんだろうなって思うわけなんです。

──山のようにデカいモンスターは山のようだし、黄金の川は黄金が流れてだし?

寺田 うん。見たこともないモンスターって書かれてれば、想像も追いつかないほどすごいんだろうなっていう。素で受け止めたときにそれは果てしないイメージになるんですよ。それこそバリエーションはいっぱいあるし。だから、「文章すげー!」と思ったんです。こういう楽しみようが自由なものがこの世に存在しているということに驚いて本を読むことが更に好きになるんですよ。で、『キャプテン・フューチャー』は機会があれば買ってもらうようにして。

 何が言いたいかというと、想像力はすごいなって話です。

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