てづかあけみさん×斎藤紀男先生

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宇宙のことが大好きなてづかあけみさん。『はじめての うちゅうえほん』『はじめての ほしぞらえほん』『宇宙りょこうへ でかけるえほん』『はじめての ちきゅうえほん』の制作協力及び監修を担当した斎藤紀男先生とは大の仲よしで、宇宙について語りはじめるとお二人の話は尽きません。今回は絵本についてのクリエイティブな側面から、宇宙への想い、そして子どもたちへのメッセージなど、幅広いお話を披露してくれました。

 

 

―――てづかさんご自身が企画を出された絵本『はじめての うちゅうえほん』(2009年刊行)についてお聞きします。まず、どうしてこの絵本を作りたいと思われたのでしょうか?

 

てづかあけみ(以下てづか):この本を制作する前に、PIEさんで決まっていた企画を(イラストレーターとして)4冊やらせていただいたんです。『和英えじてん』と『英和えじてん』という本で、そのあとに『はじめての~』シリーズが始まって。そのときはよくわからないまま、とにかく絵だけ描いて……、というような感じでやらせていただいたのですが、本を出すのは初めてだったんです。この4冊が終わったあと、「さて、てづかさん、次は何がやりたいですか?」と(編集部担当者から)初めて聞かれたんです。私は自分から企画を出すのは得意じゃなくて、でも当時唯一興味があったのが「宇宙」でした。すごく専門的なほど詳しいとか好きというわけではなかったのですが、その頃は宇宙について、マニアックなくらい詳しい人と何も知らない人に差があって、その中間の私くらいの人が親しめるような本があったらいいなって思ったんです。宇宙ってごくあたり前、自分も宇宙にいるわけですから。あたり前に毎日親しめる、宇宙への入口のような本がいいなと考えていて、自然と「この本しかない!」と思い、提案しました。

 

「はじめての うちゅうえほん」

 

 

―――企画は順調に進んだのでしょうか?

 

てづか:私としてはかなり小声で企画を提案したつもりだったのですが(笑)、思いがけずとんとん拍子に進んでいったんです。2009年が「世界天文年」だったことも大きいですね。「世界天文年」はガリレオ・ガリレイが望遠鏡で宇宙を観測して400年を記念した年で、次はいつになるかわからない貴重な年。本の帯にこの「世界天文年」のロゴを入られるならいい宣伝にもなるんじゃないか、という話もあって。ほんとにいいタイミングで本を出すことができました。そういった要素がないと、当時は「宇宙の本って売れるのかな?」という心配もありましたから。

 

斎藤紀男 (以下、斎藤):てづかさんに最初にお会いしたのは、私がまだJAXAにいた頃かな。「宇宙の絵本を作りたいという人がいる」と言う紹介があって実際にてづかさんにお会いして。実は私も、最初は「宇宙の絵本って売れるのかな?」と思っていたんです。でも、私が日本宇宙少年団(YAC)という組織にいた経験からも、宇宙についてたくさんの人に知ってもらえるのはいいことですし、もう原案のようなものができていたので、新しい情報を付け加えるなどのお手伝いをしました。(もう一人の監修者の)的川(泰宜)さんはJAXAの広報の仕事をしていて本も書いていて知名度もあるので、私一人より的川さんにも入ってもらった方がいいと思って声をかけたら、「いいですよ」と快諾してもらえたんです。

 

 

―――制作にあたり、楽しかったことや逆に苦労したことなどはありましたか?

 

てづか:まず、斎藤先生にお会いできたことがとても楽しかったですね。JAXAの相模原キャンパスにも実際に行かせていただきました。自分が憧れていた空間で仕事の打ち合わせができて嬉しかった。監修に的川先生も携わってくださったこともあり、楽しい思い出ばかりですね。自分の企画なので、絵コンテも自分で書いたのですが、的川先生にお会いしたときにそれを渡したところ、「もうできているじゃない」と言っていただいて、とてもホッとしたのを覚えています。

 

 

―――ページをめくると、絵と文字が一体になっていてとても楽しい誌面になっていますが、画材やタッチ、配置などクリエイティブについてのこだわりを教えてください。

 

てづか:イラストはフォトショップで描いています。以前映像の会社に勤めていたときに映像のコマ割りなど絵コンテを描くことが多かったのですが、その経験を生かしてページを構成しています。出だしというか、ページをめくったときの最初のページにこだわっているんですけど、読み物というより、テンポを大切にして文字を詰めすぎないようにするとか、映像の仕事の影響が出ていると思います。作業としては、文章と絵を全部自分で描いて、デザイナーさんや編集の方に整えていただく形でした。フォントなどはお任せしていますが、ページ構成に関してはかなりこだわりがあります。

 

斎藤:私も印象に残っているんだけど、最初のページを開いたとき「あっ」と思いましたね 。初めて見た印象が「これいいな、すっきりしていて。このセンスがいいな」と個人的に思いました。

 

てづか:ありがとうございます。以前描いた絵は、(今の自分から見ると稚拙で)描き直したいくらいなんですけど。絵で表現しているのは、すべて自分の「実感」なんです。「お勉強しましょう」ということではなく、自分の実感を大切にしたいといつも思っています。

 

 

―――お二人にお聞きします。子どもの頃から「宇宙」に興味があったのですか?

 

てづか:子どもの頃は、そんなマニアックに知っていたわけではないけれど、(宇宙が)もっと身近になればいいなって思っていたんです。最近はISS(国際宇宙ステーション)から届く画像や映像で宇宙や地球を身近に見られるようになりましたが、当時はまだそういった情報があまりなく。それで、「丸い地球が毎日見られたら、もうちょっと(世界が)平和になるかも?」と真剣に思っていました。今はそこまで呑気には考えていないですけれど。興味を持ち始めたのは大人になってから。きっかけは特にないのですが、今住んでいる家の近くに川があって広い空がよく見えるんです。それが自然と宇宙に親しみを感じさせてくれたのかもしれません。そんな環境に30年近く住んでいて、子どもの頃よりもむしろ今のほうが空を見ていますね。自宅でイラストを描く生活になってから、ずっと空を見ている気がします。そんなふうに、マニアックに好きな人じゃない人にも、宇宙がもっと身近になったらいいな、と思っています。

 

 

―――てづかさんは種子島宇宙センターにも行かれたことがあるそうですが、やはり「宇宙」がかなりお好きなのでは?

 

てづか:種子島には斎藤先生からすすめられて行ったんですよ。本当に楽しかったです。宇宙センターに日本最大のロケット発射場があって、2回ツアーに参加して2回ともロケット打ち上げを見ることができました。打ち上げは天候とかいろんな条件によって中止になることも多いそうなので、本当にラッキーでしたね。ところで、先生はどんな子どもだったんですか?

 

斎藤:私の場合はね、子どもの頃に疎開というのがあって、小学校に上がる前は福島の田舎にいたんです。遊んで夕方家に帰って来ると、お天気がいい日は夕焼けや一番星が見えた。そばに大きな木があって、その横でいつも空を見ていました。当時はまだ宇宙という意識はなくて、宇宙を意識するようになったのは(疎開から)東京へ戻ったあと、小学4、5年生のときかな。学校の課外授業で劇場に映画を観に行くことがたびたびあって、そんな中で恐竜と原人と戦う場面がある、人類の始まりの頃を想定したフィルムを観て、私は恐竜に興味を持った(歴史的にはその時代は恐竜は絶滅していたけど)。「大きくてすごいな」って。それで恐竜を見たくて児童年鑑で調べたんだけど、どうやらもう恐竜は絶滅して地球上にはいない、ということがわかったんです。地球にはもう恐竜の化石しかない。でももしかしたら、地球じゃないほかの星にはいるんじゃないかと思って、それで宇宙に関心がわいてきた。とはいえ遠いし、飛行機では行けないというのは何となく分かっていたので 、ロケットで行けるのなら、ロケットを作ればいいんじゃないか、って本当に単純な発想で宇宙との接点ができた。それで、今に至るわけです。

 

 

―――宇宙との関わりはかなり長いですね。人生そのものというか。

 

斎藤:そうですね。紆余曲折はありましたけれど、(大人になって)その関連の仕事に携わるようになりました。今は仕事の形態が変わりましたが、その関係でこの絵本にも関わらせてもらえるようになりましたし。中学、高校と、ずっと(宇宙関連の)学科に行きたいというのがベースにあったんですけど、当時はまだ宇宙専門の学科の有る大学が少なくて。大学は工学部で学んで、就職するときも東京でロケットを作っている会社を探して就職しました。研究者としてより、民間企業で「ものづくり」をしようと考えたんです。ものづくりは好きでしたから。あの頃はアポロ計画で月へ人類が行く前で、特に日本ではまだまだ宇宙開発はあまり知られて無く、宇宙で不動産をやるのとかミサイルをやるのとか言われたことがありましたね。

 

てづか:そうですね。冷戦時代でしたから、それと絡んでいましたよね。今とは違いましたよね。

 

 

―――「はじめての ほしぞらえほん」「宇宙りょこうへでかけるえほん」「はじめての ちきゅうえほん」など、お二人が関わる本は宇宙に関するタイトルばかりですが、お二人は「宇宙」のどのようなところに魅力を感じますか?

 

てづか:う~ん、何だろう。ひと言で言うと、「自分がいる場所」ですね。そして(自分の)視点を変えられるもの。宇宙をちょっとひもとくと、私たち人間がほぼ知らないことだらけというのが、よくわかる。例えば、ISSから撮った地球を見ると、まるで顕微鏡を見ているような気になるんですよね。物事の大小もわからなくなって、「あ、自分は何も知らないんだ。知らないで生きているんだ」と、いつも気づかされます。

 

斎藤:(世の中の)たいていのことって解明されるけれど、宇宙のことってわかったと思ったらまたわからなくなる。例えばブラックホールだったり、重力波だったり。最近それの撮影に成功したけれど、「それはわかったけれど、じゃあ、そのもとはどうなっているの?」って(疑問が)どんどんどんどん広がるからね。まあ、本当に興味がつきないというか、知りたいことが無限にある。そういう意味では宇宙と縁が切れることがないのかも知れません。どんなことも極め続けるものなんだろうけれど、宇宙に関してはわからないことが限りなく出てくるのが魅力ですね。

 

てづか:でも、地球もわからないですよね。海の中とか、宇宙と同じくらいわからないことが多い。

 

斎藤:そうですね。 今コロナウイルス禍だけれど、ウイルスなんか私たちよりずっと大先輩だからね。歴史的に言えば。小さいから無視されやすいけれど、数でいえば銀河系の星よりも多いかもしれないし、わからないことだらけ。現にわれわれ人間だって「どこから来たんですか?」って疑問があるでしょう。でも「われわれは地球で生活しているけど(地球は太陽系の惑星のひとつで)太陽系は宇宙の中にある」という発想をすれば、ずいぶん視点も変わる。とはいえわれわれ人類はなかなか単純じゃないから、視点を変えるのはむずかしいかもしれないけれど。

 

 

―――普段の生活で、宇宙や自然を身近に感じるためのコツなどがあれば教えてください。

 

てづか:宇宙って言っていいかわからないけれど、「自然ってひとつも止まっているものがない」って、いつも感じるんですよね。川のそばで空を見ることが多いんですけど、自分は止まっていても空を見上げれば雲は常に動いている。それを見ると、「あ、自然って止まっていることはないんだ」っていうのを身近で感じます。うまく言えませんが。「いいことが何もない。何も動かないよ」と思ってしまうことがあるけれど、実は雲とか自然は常に動いている、止まっていることがない。だから、「物事って同じことが繰り返されるわけではないんだな」、と河原で空を見上げていつも実感しています。道を歩きながらボーッと空を見上げるのは危険なのでむずかしいかもしれませんが、例えば信号待ちの間にちょっと空を見上げたりすると、同じように感じてもらえるかもしれません。

 

斎藤:今のことってある意味すごく究極の話で、てづかさんが今「何でも動いている」って言ったじゃないですか。もし全てが動かなくなったら、それは「宇宙の死」なんですよ。極端に言うと。温度も絶対零度になって、そうすると雲も動かない、分子とか原子とか素粒子も。死の世界だから。逆に言えば「動いている」というのは、自然や宇宙を感じるあたり前のことなんですね。哲学的な話になってしまいますが。

 

 

―――この宇宙に関する『はじめてのシリーズ』を、子どもたちにどのように見て、感じてほしいですか?

 

てづか:(子どもだけではなく)「大人も知って欲しい」っていうのがあって。「大人も読んでね」というところですかね。

 

斎藤:そうね。これは絵本だけれど、ちょっと文章とか理屈っぽいところもあるじゃない?

 

 

―――確かにそうですね。例えばお母さんが子どもに尋ねられたときに、宇宙のことって聞かれてもわからないことがある。大人も一緒に読んで「へえ~」って思えるのがこの絵本の醍醐味なのでしょうか?

 

てづか:そうですね。私は、「自分が読んでいて楽しい」というのが本を作るときの基本なんです。自分には子どもはいないんですけど、大人も子ども誰もが楽しめることが基本。「〇〇さん向けに作りました」とかではなく。常に想像したい、というか自分で実感したいと思っているんです。「もし月まで飛行機で行くとしたら、何日かかるだろう?」とか想像したりして。ただの知識本にはしたくないんですね。自然にすうーっと入っていける本にしたい。宇宙や星に関する本って、写真を見たほうが詳しいし確実ですよね。そういう図鑑は他にたくさんありますので、自分はその前の入口の案内役になりたいですね。

 

 

―――この本を作るときは、資料をたくさん集めてイラストなどの参考にしたのでしょうか?

 

てづか:そうですね。膨大な資料の中から削ってピックアップしたつもりです。私はなるべく短く言い切りたいほうなので、斎藤先生に付け加えていただくことが多かったですね。先生がいるから、まずは自分の好きなやり方で進められる、という安心感がありました。

 

斎藤:(てづかさんが)初めの構想というか、絵コンテを描くときは、かなり調べているんだと思いますよ。私が見ているのは、ある程度出来上がったものだったから。面白いのはね、私には2歳の孫がいるんだけれど、『はじめての ちきゅうえほん』をあげたら、文字は読めなくても(本に登場するキャラクターの)「博士」をすぐ覚えたのね。子ども心にそういった印象があるんだな、と思いました。大きくなったら読めるようになって、また違う何かを感じるんじゃないかな。

 

 

―――てづかさんにお聞きします、今後どのような制作活動を行っていきたいですか?

 

てづか:自分がやりたいと提案した企画に携わって、それから『はじめての』シリーズも20タイトル近く作ってきたのですが、どれも「事実」を切り取って分かりやすく展開する本ばかりなんです。考えてみたら、小さい頃から「昔々あるところに~」という本より、事実を切り取った学習絵本のほうが好きだったんです。ずいぶん後から気づいたんですけど。結局昔から好きなものって変わっていなくて、創作絵本よりも、知らない事実を掘り下げるほうが私は面白くて。知らないことがまだまだたくさんありますし。そういった知らないことをどう切り取るか、ですよね。コラージュの仕方というか、アレンジの仕方というか。そういうことをずっと続けていきたいと思います。創作絵本で素晴らしいものはいっぱいありますし、そういう本はほかの方にお任せして、自分は事実から何か面白いものをピックアップして何かを作れたらいいな、って考えています。

 

 

―――ありがとうございます。そういえば社内で、「てづかさんが手がけた本は絵本図鑑のようですね」という話をしていたんです。絵本と図鑑のちょうど真ん中のような本で、初めて読むのにぴったりの立ち位置といいますか。

 

てづか:そうですね。最初から「絵本図鑑を作ろう」と思っていたわけではなく、気づいたらそうなっていった感じです。こういったきっかけをくださった、PIEさんには感謝ですね。

 

斎藤:実は日本人は、小学校や中学校といった義務教育で、宇宙についてあまり勉強してこないですよね。高校では理科で地学を取れば多少やるかもしれないけれど、宇宙の詳しい勉強はあんまりしていない。だからお子さんがいるお父さんやお母さんは、マスコミ情報などから漠然と宇宙と言う言葉は何となく知っていても、「じゃ、宇宙にある惑星は8個?昔は9個じゃなかった?」などと、きちんと答えられないことも多い。もちろん個人差はあると思いますが。専門的な本は手軽に手に入るけど、大人でもそれは意外に難しい。だからこういう絵本図鑑だったら、子どもに見せながら「ああ、そうか」と親も一緒に知ることができる。多分大学受験をする人は、ほとんど地学なんかはとらないでしょう。理系の人でも化学や物理くらい。宇宙って、勉強する機会や知る機会があまりないんですよ。そういう意味では、(絵本図鑑という視点は)面白いポイントだと思います。

 

 

―――『はじめての』シリーズにはたくさんの宇宙や地球に関する知識が詰まっていますが、てづかさんはかなり勉強されたのでしょうか?

 

てづか:そうですね、進めている最中は……。でも、(後から考えると)「この本はここが詳しく書いてあるけれど、この本にはこれが抜けている」みたいな、結構アンバランスな印象があって。最新の『はじめての ちきゅうえほん』では、バランスよく情報を入れようと心がけました。この本がいちばんむずかしかったですね。

 

「はじめての ちきゅうえほん」

 

 

―――斉藤先生にお聞きします。最近の宇宙関連トピックスを教えてください。

 

斎藤:たくさんありますね。さっきも話に出ましたが、宇宙というものがだんだん(一般的に)広まってきた。一部の研究者や関心がある人だけでなく、新しい技術との相乗効果で宇宙分野がどんどん広がってきています。例えば10㎝立方の超小型人工衛星ができるとか。大きく分けると海外と国内の状況があって、海外では有人ロケットが開発されて一般の人でも宇宙へ行けるようになってきています。もう国家主導ではなく、民間企業がビジネスとしてできるようになっている。宇宙が商売できる分野になった、というのが大きいですね。スペースXのイーロン・マスクなんかは、ITで儲けて宇宙分野に携わるようになりましたし、あとはアマゾンの創立者ジェフ・ベゾフ。この2人とも若い時から宇宙に関心があって、ビジネスにもなるだろうと考えた。単にロケットを飛ばすんじゃなくて、宇宙旅行をできるようにしました。 更に地球軌道に大勢の人が生活する宇宙コロニーや火星に人類が暮らす永久的な都市などの構想も発表しています。

 

てづか:確か、この本(『はじめての うちゅうえほん』)を作っているときに、そのニュースが話題になりましたね。(本に書かれていることが)だんだん現実になってきました。

 

斎藤:宇宙旅行も行きやすくなり、先ほどの2人以外でも、ヴァージンアトランティックのスペースシップ2「ユニティ」が4分間ほど無重力体験する宇宙旅行ですが7月に飛ぶ予定です。まだ金額はかなり高いけれど、予約した人が世界中で約600人くらいいる。日本でも参加者がいるんです。そんなふうに発展してきて、やはり有人飛行分野はこれから急速に拡大して行くと思います。日本では今H3ロケットというのを開発していて、今年度には初号機が飛ぶので成功するよう期待したいですね。あとは(「ZOZO」創業者の)前澤友作さんがスペースXの宇宙船で月へ周回旅行に行く切符を買っていて、その訓練のために今年12月にロシアの宇宙船・ソユーズに搭乗する、というニュースが話題になっています。国際協力で大きなのは日本も参加しているアメリカ主導のアルテミス計画があります。早ければ2024年に人類が再び月面に立つかもしれません。宇宙自体のニュースでは新しい観測装置が話題です。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機で性能がいい望遠鏡(ジェームス・ウエッブ宇宙望遠鏡)が今年打上げ予定です。地球外生命の痕跡が見つかるくらい性能がよく、太陽系外、系外惑星の情報が分かるんです。サイエンス分野でも新しい発見がありそうです。結構盛りだくさんなんですよ。

 

てづか:(ハッブル宇宙望遠鏡は)宇宙に浮いている望遠鏡ですね。

 

斎藤:そうそう。地球上だと大気があるから(ぼやけてしまう)。人工衛星みたいに望遠鏡が軌道上を周回していて、そのうち月にも作ろうという計画があるんですよ。

 

 

―――これから、人々がもっと気軽に宇宙へ行けるようになるのでしょうか?

 

斎藤:技術的にはね、きっと行けるようになると思いますが、まだ金額が高いですね。これからはいかに安く行けるようになるか、という段階に入ってくると思います。ロケットも今までのように使い捨てではなく、地球へ戻ってきてまた再使用できるような、スペースXのロケットがそうなんですけど、ほかの会社もそうなってくるでしょうね。何度も使えるようになれば金額も安くなりますし。

 

てづか:いつ頃までにできるでしょうね?

 

斎藤:う~ん、数百万円になるのは10年後とか20年後とか、かな? ただそれは、先ずは宇宙の入口へ数分間行って無重力を体験してくる端短時間の宇宙旅行ですが。

 

てづか:それでもいいです。参加したいです!

 

「宇宙りょこうへ でかける えほん」

 

 

―――最後の質問です。昨年からコロナ禍によって、子どもたちが新しい生活を強いられていますが、そういう子どもたちにこそ伝えたいメッセージはありますか?

 

斎藤:子どもたちに対して、どんな気持ちを持って大人になって欲しいかというと……。今の子どもたちってわれわれの時代と違って、デジタルやITにどっぷりでしょう。それは仕方のないことなんだけれど、それだけじゃなくて月並みだけれど体を鍛えるとか、これは何につけても大事。それと、子どもたちが大人になって働く頃はいわゆる宇宙時代に突入するわけなので、どんな仕事をするにしても宇宙が関係してくると思います。そこでさっきも言ったけれど、宇宙って知らないことばかりだから、まずは興味を持ってもらえるといいなと思います。そのためにも親御さんにお願いしたいのは、お子さんが小さいうちにまず天の川を見せてあげて欲しい。それがむずかしい場合は昇る朝日や沈む夕日でもかまいません。都会に住んでいるとなかなか見せてあげられる機会がないかもしれませんが、小学校高学年くらいまでに一度見せてあげると、何かしら心に残ると思います。宇宙人に興味を持ってもらうのもよいかもしれません。何と言っても、宇宙は無限ですし、いろんな分野が絡んできますから。一度宇宙に触れる機会を作ってあげて、もしよければこの絵本を読んでもらえるといいですね。

 

「はじめての ほしぞらえほん」

 

てづか:今回のコロナ禍のように、いつもと違うことが何か起きると、やっぱり感覚が変わりますよね。そういった感覚の変化を大切にして欲しいな、って思います。さっき「何ごとも止まっていない、動いている」と言いましたが、「感覚が動くこと」をもっと知って欲しい。今の状況が終わったら、また違う感覚が生まれると思いますし……。斎藤先生のお話を聞いていて思い出したんですけど、種子島宇宙センターに行ったときに、都会ではありえない漆黒の空を見て「うわ~」って感覚が動いた。やっぱり感覚って理屈じゃなく動くものなんですね。今回はコロナ禍という辛い状況ではあるものの、そんな日常の中でも感覚が動いている、ということを実感して欲しいですね。

 

斎藤:さっき「(世の中が)変わってきた」と言いましたけれど、もっと宇宙が一般的になってきたら、個人的には「宇宙のお仕事」ってどんなものなのか、子どもたちに理解してもらう手助けをしたいですね。重力がある世界と違うところでも色んな仕事がありますし。それと少しかぶるのですが、「宇宙の暮らし」ってどんなものなのか、例えば宇宙では料理をどうやって作るのかなんて、想像すると面白いじゃないですか。好奇心を持っていろいろユニークな想像をしてもらいたいと思っています。

 

てづか:この本を作っているときは、(ISSの様子は)まだ写真でしか見られなかったんです。でもこの前、宇宙飛行士の野口聡一さんがISSでの暮らしをyoutubeで公開していて、毎日動画を見ることができたんです。今までは想像で描いていたことが、動画を見て描けるようになるなんて、時代は進んでいるな、って思います。

 

斎藤:子どもっていろんな想像をするでしょう。「宇宙に行ったらおもちゃでどういうふうに遊ぶの?」とか。地球上でやっていることを宇宙バージョンでやったらどうなるのか、子どもたちに想像してもらいたい。そして、宇宙がもっと身近になると嬉しいですね。

 

 

―――本日はありがとうございました。

(完)

 

対談者斎藤紀男

(国立研究開発法人)宇宙航空研究開発機構(JAXA)元副本部長、(公財)日本宇宙少年団(YAC)相談役、丸の内プラチナ大学講師。東京農工大学工学部卒、カリフォルニア工科大学大学院航空学科修士修了。宇宙関連業務の経験をベースに講演やイベント、こどもたちの宇宙への夢を育てる活動に関わる。『はじめての うちゅうえほん』『はじめての ほしぞらえほん』『宇宙りょこうへ でかけるえほん』『はじめての ちきゅうえほん』(PIE International)制作協力及び監修。