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広告コピーの中には、ストーリー性が強く、
詩や短編小説のような世界観で綴られたものがあります。

コピーライターは、その物語をどうやって書いたのか。
ふだん何を考え、何を思っているのか。
その「舞台裏」をご紹介します。

もしかすると、小説よりおもしろいと思える広告コピーが
この中で見つかるかもしれません。

第七回の物語

ママとパパが
世界をつくる。


飲み会で遅くなって、週末は寝てばかりで、
ママを怒らせてばかりのパパは、
じつは誰よりもママを笑顔にするのが得意。
突然ヘコんだり、ワガママ言ったり、
パパを困らせてばかりのママは、
本当はいちばんのパパの理解者。
そんなふたりが一緒なら、
どんな不安も半分に分けあえる。
駅の段差だって、この国の逆境だって、
よいしょ!と笑顔で乗り越えられる。
がんばれママ。負けるなパパ。
あたらしい世界は、いつだって、
まんまるいお腹の中からつくられるんだよ。




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コピーライター:小川愛世 / 小澤裕介
クリエイティブ・ディレクター:瀬川浩樹
アート・ディレクター:副田高行 / 齋藤陽平
デザイナー:溝江 彩
フォトグラファー:泊 昭雄


第七回の舞台裏


大震災後のママ・パパたちへ


「出産前の不安、地震によるさまざまな不安。例えば放射能や水のことなど、具体的な内容を文章で表現することも考えましたが、最終的にやめました」

そう語るのは、この広告コピーを担当した小川愛世(あきよ)さん。


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コピーライターの小川愛世さん


離乳食・粉ミルク・ベビーフードメーカー、和光堂。日本で初めて粉ミルクをつくったこの企業は東日本大震災のあった2011年、冒頭の広告を掲載した。小川さんがつづける。

「放射能などへの不安を語れば、メッセージは強くなります。でも、読んでどんな気持ちになるかを考えると…喜ぶ人はいないなって。和光堂さんの製品がその不安をすべて解消してくれるわけでもないですし、「いいこと言ってる」風のメッセージでは読者の方に見破られますから」

「誰が語るか」「何を語るか」によって、メッセージの受け止め方は違う。多くの企業が震災に配慮した広告を打ち出す中で、小川さんは和光堂が広告で何を語るべきか、何度も考えたという。

「日本全体が不安になっていた時期に、和光堂さんが「日本の社会に意見広告を!」というわけではないし。でも、ただ「がんばれ」だけだとメッセージとして弱いし軽い。そのバランスが難しかったですね」



「美化」ではなく「見方を変える」

「ママとパパが世界をつくる。」

このキャッチコピーを小川さんが書いて来た日のことを、小川さんの師匠である小澤裕介さんが語ってくれた。


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小川さんの師匠、小澤裕介さん


「「命を育んで世に送り出すこと」=「すべての世界をつくる源」という視点に気づきがある、と思いました。「新しい価値の提案」という大それたことはできないけど、「見方を変えると明るくなれる」という発見があった。小川にはそこまで褒めてないですけど(笑)。実は最初、和光堂さんからは予算の都合上「文字だけの原稿で」という依頼だったんです。でも、「このコピーには絶対に写真が必要だ」と思い、文字だけの企画案と合わせて提案しました。結果、和光堂さんもこちらの案を気に入ってくださいました」

まるいおなかが地球を連想させるデザインとともに、日常のできごとを「美化する」のではなく「見方を変える」ことで、読んだ人が前向きな気持ちになれる。小澤さんはさらにつづけた。

「子育て製品中心の企業だからか、和光堂の皆さんは心の優しい方ばかりなんです。そういった意味でも、今回の広告で放射能や水の問題といった、リアルな不安を追求しすぎてネガティブなメッセージにはしたくなかった。和光堂さんのイメージにはとても合わないですから」

小澤さんが社員の方に抱いたそのイメージは、過去に小澤さんが手がけた和光堂の広告にも表れている。企業の「優しい人柄」は、小澤さんと小川さんの手によって、「前へ進む勇気を与えるメッセージ」として綴られているのだ。


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2009年和光堂新聞広告




受け継がれる物語

小川さんがコピーライターになった入社2年目。その教育係にとなったのが小澤さんだ。小川さんは当時のことをこう語る。

「コピーライターとしての基礎は、すべて小澤さんから学んだと思っています。細かいところまでていねいに教えていただきました。私は「いいフレーズだ!」と思った言葉を文章の中にてんこ盛りにする傾向があるので、小澤さんに見せて「こっちはいいフレーズだね」と言われることで、「他はイマイチなんだ…」と気づくこともあったり(笑)」

最近は別々で仕事をすることが多くなったそうだが、唯一今でもいっしょに担当しているのが、和光堂の広告だという。小川さんがつづける。

「キャッチコピーの「ママとパパが世界をつくる。」にしても、「ママ」と「パパ」のどっちを先にするかとか、「ママとパパが、世界をつくる。」みたいに読点を入れた方がいいかなどを書きながら検証して…いつの間にかコピーを書く字まで似てきてしまいました(笑)。小澤さん、コピーはフラットに見えるように、あえて手書きっぽさを感じさせないように書くんです。字の上手下手がコピーの善し悪しに影響しないように」


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右が小川さん、左が小澤さんの字
公平に判断できるように手書きコピーはわざと感情のない文字で


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普段の小川さんの字


一方、師匠である小澤さんは小川さんについてこう語りはじめた。

「小川の最初の頃は、とにかくエモーショナルなコピーでしたね。本音で、感情的…そして、全然文章がまとまらない(笑)。でも、誰でもそういう時期は必要なんです、アイデアの引き出しを増やすために。今はエモーショナルな部分を残しつつも、正しい引き出しから正しい言葉やアイデアを選べていると思います。まだまだですけどね。彼女にはまだまだ先があるから」

2008年からつづく和光堂の企業広告。3年間は小澤さんが書いたコピーが選ばれ、今回ご紹介した2011年の広告で初めて小川さんのコピーが選ばれたそうだ。

「CMの制作中に3〜4日間、1日30人ぐらいの妊婦さんをオーディションする機会がありました。また職場に復帰したい方、高齢出産の方、国際結婚の方、プロサッカー選手の奥さんなど、いろんな方がいらしたのですが、そこで皆さんが語ってくれた心境や家族が増えることへの思いを、コピーを書く上で大切にしています。私は泣きマニアなので、そのオーディションで泣いて、でき上がった仮のCMで泣いて、実際にテレビで流れるCMでまた泣いて、感動しっぱなしでした(笑)。また、新聞広告もアート・ディレクターの副田さんが本当に素敵にデザインしてくださって。あたたかい上質なトーンの世界に、自分の書いたコピーがあってすごくうれしかったです

そんな愛弟子を温かい目で見守りつづける小澤さんは、制作中に気をつけていたことがあるという。

「小川は女性だから、和光堂さんのテーマを生理的に言葉にできる。それがいいところ。だから文章の表現を僕が整える時に、いいところを削いでしまわないように注意しました」

赤ちゃん・ママ・パパへの愛情溢れる和光堂の広告コピーは、そんな2人の、まるで親子のような師弟愛があったからこそ生まれた物語なのかもしれない。





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小川愛世(おがわ あきよ) 
2006年電通入社 コピーライター。和光堂のほかに、日本コカコーラ、日本マクドナルド、キヤノン、リクルートなどを担当。社内横断プランニングチーム電通ギャルラボ立ち上げメンバー。




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小澤裕介(おざわ ゆうすけ)
1969年生まれ。電通3CR局勤務。最近の主な仕事は、日本マクドナルドのクォーター・パウンダー、アイコンチキン、日立製作所の1/Hitachi、アクエリアス、和光堂など。

新刊案内

Web未公開の広告コピーや
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『物語のある広告コピー』

1,500円+税(216ページ)

本書では、ストーリー性が強く、詩や短編小説のような世界観で綴られた広告コピーを紹介します。コピーライターの「教科書」としてはもちろん、ストーリーを味わう「エッセイ・物語集」としても楽しめる1冊です。

【掲載作品】
女子ではなくて、女の子。(earth music&ecology)
泣いたオムレツ(ユナイテッドアローズ)
海も山もある故郷を、なにもない町と呼んでいた。(五明)
人生が、ラブストーリーでありますように。(明治)
南アフリカの父へ(朝日新聞)
日本一おいしいうどん屋(名古屋広告業協会)
など、約100作品

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