第八回の物語
恋をしましょう
みなさん恋をしましょう。
誰かを好きになりましょう。
そして自分を好きになりましょう。
みなさん恋をしましょう。
それは世界を新しくしますから。
知らなかった歌を好きになったりしますから。
ゴハンが美味しくなったりしますから。
深呼吸の意味を変えたりしてくれますから。
それは嘘の悲しさを教えてくれますから。
たとえそれが終わっても、きっと何かを残してくれたりしますから。
さあ、年齢を超えましょう。
性別を超えましょう。
国籍を超えましょう。
経験を超えましょう。
みなさん恋をしましょう。
地球は愛が救ってくれますから。
恋をしましょう
【BEAMSのポスター】
コピーライター, クリエイティブ・ディレクター:髙崎卓馬
アート・ディレクター:石井 原
デザイナー:藤大路季子
第八回の舞台裏
世の中を照らす「BEAMS」に
昨年35周年を迎えたBEAMS。そのキャンペーン広告のコピーを担当したのが、映画『ホノカアボーイ』の脚本・プロデュースやJR東日本の東北新幹線キャンペーン広告など、ジャンルの壁を超えて幅広い分野で活躍する髙崎卓馬さんだ。
クリエイティブディレクター/CMプランナーの髙崎卓馬さん
キャンペーンスタートに伴い、駅やBEAMS店内一面にポスターが一貼られ、「恋をしましょう」という言葉で溢れかえった。その制作時のことを髙崎さんはこう振り返る。
「35周年ということで、当初BEAMSさんからは「CMをつくれないでしょうか」という依頼があって。その話を聞いたときになんとなく言葉にならない違和感があって。僕をはじめBEAMSを好きな人にとって「あのBEAMSがマス広告をうつ」ってなんだか歓迎されないような気がしたんです。CMってどうしても皆のもの化させてしまう。BEAMSの最大の魅力でもある強い個性と逆の動きになりそうで」
そして、2011年3月11日、あの大震災が起こる。余震、放射能、次またいつ起こるか知れない大地震への不安…世の中が目に見えない何かに怯え、立ち止まったままでいる中で、髙崎さんは考えつづけた。
「もはや、広告が商品や自社ブランドのことだけを言っている場合じゃない。受け手である世の中が弱っている中で、何を言うべきなのかを考えました。「BEAMS」は光の複数形。そこで最終的に「35周年のBEAMSが世の中に光を当てる」というコンセプトでキャンペーンをやろう。意味のあるメッセージを発信しよう、となったんです」
「絆」という横のつながりを再確認させる言葉があふれた当時、「恋」という言葉で世の中の気分を前に進めようとしたのが、このキャンペーンなのだ。
「恋をすると服もきれいになるし、背伸びしたくなるし、普段行かなかったところに行くようになる…つまり「人が動く」ことがすごく大切で。立ち止まっていたその一歩を後押ししたいと思いました」
キャンペーンスタートから話題となり、twitterでは広告の掲載写真だけでなく、わざわざ広告コピーを文字で打ってtweetする人も数多くいたという。髙崎さんは笑顔でつづける。
「今回の広告コピーが140字じゃ書ききれないので、2回に分けてtweetしてくれる方もたくさんいらっしゃいました(笑)」
「恋をしましょう」キャンペーンサイト。
川島小鳥さんとコラボしたPHOTO BOOKなどがある。
考える=想像する
「とにかく考え抜くことです」
コピーや企画を考える上で大切なことは何か。その問いに髙崎さんはきっぱりと応えた。
「頭の中で考えまくる。例えば、いいモノを見たら何がいいのか考え、つまらないものを見たらどうしたら面白くなるかを考え、企画やコピーならたくさんの量を考え、面白いものを思いついたらどうやってその企画を通すかを考え…トラブルもだいたいシミュレーションできています。だから逆に「なんかいい感じのものをつくりたいなぁ」って、ふわっとつくることはないです」
今回のBEAMSの広告コピーについても、そういった「考える時間」が9割で、「コピーを書く時間」は1割だという。何を考えるのかを聞くと、面白いたとえ話をしてくれた。
「相手の反応や気持ちを想像する、ということです。たとえば占いで女の子が「私、いつ結婚できますか」と聞いてきたら、結婚したいことは分かるじゃないですか。で、今度は見た目やしゃべり方から想像する。バリバリ働いてる感じがすれば、そこから「仕事はやめたくなさそうだ」と想像できる。そこで「今の仕事を変えない方がいい、そのままいつか出会えるから」と女の子に言う。つづけて「わざわざ自分を変えて出会うより、変えずに結婚できた方がよくない?」と伝えると、もはやアドバイスだけど(笑)占いに聞こえる。心のこりをほぐすというか、相手の言われたかったことを正確に言ってあげるということかも知れません」
たった一言から女の子の気持ちを想像し、また次の一言を考えて用意すると、その子が言われたいタイミングで言われたい言葉を言うことができる。そうすると「来てよかった」、「話してよかった」となる。広告も受け手の気持ちを考え、「よかった」と思ってもらうためにつくるという点で、基本的に同じなのだ。
では、髙崎さんがそのように常に想像し、考え抜くようになったのは、いつからなのか。それは自主映画制作や劇団で活動していた学生時代にまでさかのぼる。
次回へつづく。
髙崎卓馬(たかさき たくま)
電通 コミュニケーション・デザイン・センター クリエイティブ・ディレクター / CMプランナー / コピーライター。1969年福岡県生まれ。主な仕事にオランジーナ、オールフリー、アセロラ、インテル、JRA、ナツイチ、東芝REGZA、JR東日本ほか、映画「ホノカアボーイ」の脚本・プロデュースも手がける。2010年クリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。著書に「表現の技術」(電通)、「はるかかけら」(中央公論新社)など。
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