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広告コピーの中には、ストーリー性が強く、
詩や短編小説のような世界観で綴られたものがあります。

コピーライターは、その物語をどうやって書いたのか。
ふだん何を考え、何を思っているのか。
その「舞台裏」をご紹介します。

もしかすると、小説よりおもしろいと思える広告コピーが
この中で見つかるかもしれません。

第十一回の物語


これ以上、太り過ぎてもこまるけど。
おかわりしてくれると嬉しい。



ふたを開けると、ふわっと釜からのぼる湯気。
だしの利いたかやくごはんの匂い。
ふっくら、上手に炊けている。
今日もあの人、食べ過ぎちゃうとか言いながら、
しっかりおかわりするだろう。
かやくごはんを炊くと、
飲んで帰ってきた夜もおかわりをする。
そんなときあの人は、
ネクタイをはずして食べるほうがやっぱりうまい、
としみじみ言う。
いとおしくてついつい二杯目をよそってしまう。
太り気味はなんとかしたいと思うけれど、
あの人のおかわりだけは許してあげたい。



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【ヤマサ 昆布つゆのポスター】
コピーライター, クリエイティブ・ディレクター:神戸海知代
アート・ディレクター, フォトグラファー:黒沼かおり
デザイナー:白井正美
イラストレーター:岩本充恵


第十一回の舞台裏


はじまりは「としおちゃん」


ヤマサ「昆布つゆ」シリーズ広告のコピーを担当した神戸海知代さん。食卓での夫婦の温かな日常を描いたそのコピーは、ポスターが貼られた工場の社員から「一枚ゆずってほしい」と要望が出るほど、読み手の心にじんわり響くストーリーだ。そんな彼女の広告の原点は、意外にも小学校の学級新聞にあるという。

「もともと小さいころから、広告が大好きでした。父がCMソングやキャッチコピーを口にしていたのを真似して私も口ずさんだり、CMから勝手に連想して自分のテーマ曲をつくったり(笑)。そのころ、学級新聞で担任の先生をモデルにした「がんばれとしおちゃん」という4コママンガを書いていたのですが、いま思い返してみると、私がはじめて手がけた広告はこの連載かもしれません」


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当時を思い出しながら神戸さんが描いた「としおちゃん」


マンガの最後にクイズをつけるなど、読んでもらうための工夫をしながら月に数回描いていた「がんばれとしおちゃん」。このころから「なにかを伝えることが自分の役割」「将来はそんな仕事につくだろう」と思っていたそうだ。



営業からコピーライターへ

大学を卒業した神戸さんは、小さいころの予感通りに(?)広告代理店へ入社した。

「最初は営業として採用されたのですが、新人研修中にラジオCMの課題があって、たまたま自分の出した企画が実際の競合プレゼンで勝っちゃったんです。そこからクリエイティブ(コピーライター)に興味が湧いてきました。配属先の営業部長が元コピーライターの方で、「きみ、クリエイティブに興味があるんだよね?」「そうなんです!」「でもきみ、なにもクリエイティブのこと知らないよね」「そうなんです…」みたいなやりとりをして(笑)。結局、仕事をしながらコピーライターの学校に通わせていただくことになりました」

そこでの講師の紹介で、神戸さんはとあるコピーライター事務所にアシスタントとして転職することになる。営業からコピーライターへ。転職してから毎日、書いても書いても師匠から書き直しを求められる日々がつづいたという。

「ウチの師匠のすごいところは、最後まで私に責任をとらせてくれることです。どんなに書き直しを指示しても、私に任せたコピーは絶対に自分では書かない。文章全体に赤字が入ることもあれば、最後の一文の言い回しに何度も赤字が入ることもありました。この時期は、本当にたくさんコピーを書いていましたね。200本キャッチコピーを書いて師匠に見せても、「ほかのも見せてくれる?」みたいなことを繰り返していました(笑)」


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神戸さんの初仕事。ファーストフード店の店頭に置かれた読み物。


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ほかにもさまざまな読み物を手がけてきた。



「発信者」ではなく「伝達者」でありたい

コピーライター事務所での貴重な3年間を経て、現在神戸さんは広告代理店アサツー ディ・ケイのコピーライターとして多忙な日々を過ごしている。

「休みの日は、ダイビングにハマっています。海の中にいると心が浄化されて、あるべき状態に戻っていく感じがして。ダイビングには「中性浮力」といって、重力と完全に釣り合った浮力があるんですが、特にこの中性浮力が上手にとれると、不安がなくなって平和な気持ちで満たされるんです」


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神戸さんが撮影した海の世界。

コピーを書く際のペンやノートに「特にこだわりはない」という神戸さんだが、そういった物的環境より、心的環境を重視しているという。

「心を調えておくのは本当に大事なこと。調味料が味を調えるように、調心料があればいいのに、なんてときどき本気で思いますから。だからコピーを書く時も、できるだけ海の中にいる時のような気持ちでいたいんです。中性浮力でピタッと止まれた時の感覚は、コピーを書く時の感覚ととても似ていると思います。コピーを書いている自分を見つめている自分がいる、というか…ニュートラルな状態で、その広告の商品や、商品を手がけた人や、お客さまとちょうどいい距離感でコピーを書きたいと思っているからですかね」

自分の考えや思いをアピールする「発信者」ではなく、だれかが持つ情報を魅力的な物語に変えて届ける「伝達者」であるために、心をまっさらな状態に調えて準備する神戸さん。コピーライターという仕事は、彼女にとってこの上ない天職なのかもしれない。






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神戸海知代(かんべ みちよ)
アサツー ディ・ケイ所属。TCC会員。日本雑誌広告賞・経済産業大臣賞、日経広告賞、消費者のためになった広告コンクール、ACC、IBA、ロンドン国際広告賞など多数受賞。広告は心理学だと考え、きめ細かい提案と実践をいつも心がけている。


新刊案内

Web未公開の広告コピーや
制作秘話も!
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『物語のある広告コピー』

1,500円+税(216ページ)

本書では、ストーリー性が強く、詩や短編小説のような世界観で綴られた広告コピーを紹介します。コピーライターの「教科書」としてはもちろん、ストーリーを味わう「エッセイ・物語集」としても楽しめる1冊です。

【掲載作品】
女子ではなくて、女の子。(earth music&ecology)
泣いたオムレツ(ユナイテッドアローズ)
海も山もある故郷を、なにもない町と呼んでいた。(五明)
人生が、ラブストーリーでありますように。(明治)
南アフリカの父へ(朝日新聞)
日本一おいしいうどん屋(名古屋広告業協会)
など、約100作品

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