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2012年12月に小社より発売された
『カバーラン  アダム・ヒューズ カバーアートコレクション at DCコミックス』。
アダム・ヒューズもアメコミも知らない。
そんな方のために、この本がどんな本なのか、
さまざまな方に語っていただきます。
知ってる人も知らない人も、本書の見方が見えてくる、かもしれません。

第3回(最終回) 翻訳監修者 石川裕人さんからみた『カバーラン』


第3回目にして最終回は本書『カバーラン』の翻訳監修者石川裕人さん。アメコミ番長からアダム・ヒューズ本人を解説いただきました。序文にあたるこのテキストで、アダム・ヒューズとはいったいどんな人なのかが、見えてくる。

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『カバーラン』より

(色々な意味で)大いなる男、アダム・ヒューズ

本書には、現在のアメリカンコミックスのトップに位置する人気アーティスト、アダム・ヒューズが、1989年から2009年にかけての20年間に、DCコミックスで手がけたカバーアートのほとんどが収録されている(90年代初期には、DCのライバルであるマーベルコミックスなどでも仕事をしていたが、量的にはそれほど多くはなく、本書があれば、彼の仕事のほとんどを俯瞰できると言って過言ではないだろう)。

分業制が徹底されているアメリカンコミックスでは、アート関係だけでも、鉛筆の下書きを行うペンシラー、インクで仕上げを行うインカ―、彩色を行うカラリストと大きく三つのパートに分かれているが、特にカバーを担当するアーティストを、カバーアーティストと呼んでいる。複数の作品が併催される日本のマンガ雑誌とは異なり、1冊のコミックブックにつき一つの作品が基本となっているアメリカンコミックスでは、カバーの持つ意味は想像以上に大きい。新たな読者を獲得するには、まず人目を引くカバーを用意しなければならないからだ。よって、本編のアーティストとは異なる作家を起用するケースも出てくる。それがカバーアーティストであるが、本編のアーティストを差し置いてカバーを飾り、しかもすぐに結果を残さなければならないのだから、並大抵のアーティストに務まる仕事ではない。そんな要職を20年間も続けているのが、彼、アダム・ヒューズなのだ。

1985年に19歳でプロの世界に入った彼は、88年に新興のコミコ社で手がけた探偵物『メイズ・エイジェンシー』で注目を集めた。ほどなくコミコは破産してしまうものの、彼は業界大手のDCコミックスに誘われ、DCの看板タイトルの一つ、『ジャスティス・リーグ・アメリカ』を任される事になる。同誌は、スーパーヒーロー物にギャグの要素を盛り込んで大ヒットを飛ばしており、担当アーティストのケビン・マグワイアの見せる“顔芸”に人気が集まっていた。ファンの間で、“ジャスティス・リーグ=マグワイア”という認識ができあがっている中で担当が決まったヒューズの心中を察すると気の毒になってしまうが、実際、連載当初は見劣りする感が否めなかった。デッサンや構図などの基礎はできているのだが、見る者を楽しませるまでのレベルにはまだ達していなかったのだ。嫌でもマグワイアの“変顔”を意識してしまったのだろうが、連載も2年目に入った91年頃になると、俄然、ヒューズ自身の魅力が発揮され始める。陰影を際立たせたスタイルに変わり、何よりもキャラクターの全身をフルに使った表現は、マグワイアの幻影を完全に振り払うオリジナリティを持っていた。


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『カバーラン』より

“巨乳”という武器を手に入れた

2次元の存在でありながら、しっかりとした“重量感”のあるキャラクターを描けるようになったヒューズに、新たな“武器”が加わったのもこの頃だ。91年4月にマーベルコミックスから発売された『G.I.ジョー』#111に掲載された、女性隊員スカーレットの1枚のカット、そのたった1枚のカットで、ファンはヒューズの新たな魅力を知る事になる(残念ながら、マーベル作品のため本書には収録されていない。興味のある方は G.I.JOE #111 ADAM HUGHES で画像検索していただきたい)。敬礼しながらニッコリと微笑む彼女の胸元は、ググイっと盛り上がっていた。そう、彼は“巨乳”という武器を手に入れたのだ(ちなみに、当時、コミック情報誌に掲載された下書きでは“普通”であり、敢えて“盛った”点が、高く評価される結果となった)。アメリカには、“グッドガール・アート”という、いわゆる美人画の伝統があり、ヒューズは現代におけるその第一人者と見なされるようになった。90年代半ばまで、彼はコミック本編も手がけていたが、見た目のインパクトを買われてカバーアーティストに起用される機会が増えてくると、コミック本編の仕事は急速に減っていき(本人によれば。手が遅いので、それはそれで助かったのかもしれないが)、21世紀に入ると、ほぼカバー専門といった状況になった。今やPCを使いこなし、ペンシラー、インカー、カラリストの3役をこなすようになった彼にしてみれば、それが自分の腕を活かすのに最適な場なのだろうが、嬉しい事に、今年2012年になって、久々に本編アートに復帰してくれたのだ。アメリカンコミックス史上に残る傑作『ウォッチメン』の前日譚を描いた『ビフォア・ウォッチメン:Dr.マンハッタン』がそれで、DCが誇るトップクリエイター達と共に話題作の一翼を担っている。本書では、同作のカバーと、彼がレギュラーでカバーを手がけている『バットガール』のカバーを、日本版特典と収録した。

それぞれのカバーに添えられたヒューズ自身の説明文からは、かなりキツめのジョークに隠された、アートに懸ける真摯な思いと、アメリカンコミックスの先達に寄せる尊敬の念が伝わってくる。“セクシー”という一言でくくられがちなヒューズだが、その技術、アイデアは、当代のアーティストの中でも抜きん出ている。本書の発売そのものが、その何よりの証左と言えるだろう。

最後に、以前、情報誌に載ったインタビュー記事によれば、彼は、彼が描くワンダーウーマンそのままのプロポーションをした女性をモデルにしていた。あんなスタイルの人間が存在する事にも驚いたが、仕事とはいえ、なめ回すようにモデルを見つめる様子には、“役得”という言葉を思い浮かべずにはいられなかった。なお、著者紹介の最後にある思わせぶりな一言は、どうやら本当に“思わせぶりな”だけらしい。あまり気にしないように。

序文にかえて  
石川裕人(翻訳者)



※1 マーベル・コミックと並ぶ二大アメコミ出版社。スーパーマン、バットマン等を出版。
※2 DCコミックと並ぶ二大アメコミ出版社。スパイダーマン、X-MEN、アベンジャーズ等を出版。
※3 Comico Comics。現在は存在しない小規模アメコミ出版社。ロボテックの漫画化などしていた。


決4310_カバーランJAC.jpgカバー ラン
アダム・ヒューズ カバーアートコレクション at DCコミックス

強い! かわいい! 美しい! 最強のカバーアート集登場


イラストレーター・漫画家 コザキユースケ氏も絶賛する、アメコミ界トップクラスのカバーアーティスト、アダム・ヒューズの20年以上に渡る成果をまとめた超豪華画集。
『キャットウーマン』『ワンダーウーマン』などのカバーイラストをラフ・制作秘話とともに掲載。日本版特典として 最新カバーも掲載!