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第一回目「電車に乗っておじさんを描く」
その3



──ぱっと見たものを何でも描けるようになるまでは、ひたすら見て触って描いての繰り返しでした?

寺田 うん。絶望的なこと言えば、そんな事に何十年もかかってるからね。でも前もって、「こう考えればいいんですよ」って教えられれば、10年くらいは短縮できるんじゃないかと思いますね。オレが高校くらいのときに誰かがこういうことを教えてくれれば、そこへ行き着くのはもっと早かったかもしれない。

 まあそれでも、人から聞いただけの話なんてのは、身に付かないので、それを自分のものにするには、結局同じくらいの時間がかかるのかもしれないですけどね。そういう話って、いつか必ず腑に落ちるときが来るんですよ。

 絵を描く対象は無数にあるけど、電車の中のおじさんを描くに限った話をしました。電車の中でおじさんを速やかに描くには、今言ったようなことを知っておくといいよ! 中央線のおじさん限定でね!

──ちなみに、寺田さんは若い頃、骨格標本の本とか見て勉強したりしました?

寺田 高校くらいのときは、『やさしい人体デッサン集』みたいな本を買って見たりしましたよ。結構そういうのは役に立ちました。人が咀嚼して理解して描いたものを見るとわかるってことがあるんです。何でもそうだけど、人がやったことは、やれるんだなって確信が生まれるんですよ。自分にできるできないは置いておいて、人間は「不可能ではない」という気持ちが生まれれば、不思議とそこに辿り着く意欲が強くなりますね。

 陸上で100メートル10秒切れないってみんなが言ってたときは、誰も切れないんですけど、誰か一人が10秒切ったら、その後何人も続く印象がある。それは限界を作ってたってことでしか考えられないでしょ。もちろん、そこにいろいろな技術の進化はあるんだろうけど、基本的には心理的な障壁があったってことなんじゃないの。

 ただモノを見てるときは、それがたった一冊の本でもそこから来る情報量は、もの凄いもので、とても処理しきれないんですよ本来は。本の紙がもともとパルプで、漉いた紙が160枚あって、糊で綴じられててコートして印刷機でインクがのせられて、そこに関わった人たちであるとか、文章を書いた人がいて、本の厚みは19ミリで長辺が260ミリでとか、現実にあるものはそれだけの情報量を持っている。絵を描くことは、情報を選別するっていう作業で、100%写しきるのは不可能だから、自分で取捨選択する。だからこそ絵になるんです。

 情報が多すぎると人は迷うでしょ。何を選択するのかっていう基準点が欲しいんですよ。で、人が描いた絵っていうのは、すでに一回人の手で選択されたものなので、「あ! こういう切り口なのね!」っていうのが瞬時にわかるんじゃないかと。

 デッサン書に載ってる筋肉の描き方とか、単純化しているものを見ると、人は腑に落ちるじゃないですか。例え話を聞いたりとか。例え話はアウトラインを抽出して要点だけを伝えるからわかりやすいんで、それは絵も同じことですね。
 マンガやアニメの絵は特にそう。構造的に早く描かなきゃいけないのが多いから、スタイルが様式化されていくでしょ。フィルタがはっきりしているんです。デフォルメは描いた人のフィルタを持って世界を描いていることになるんです。なので、人が描いた絵を見たら、自分でも描ける気がするってみんなが思うのは、フィルタをお借りしているからなんですよ。初めて絵にする方法をそこで知るわけです。

 だから、自分がなんとなーくわかってる方法や、フィルタを使ってる絵を見たときには、心は動かないけど、自分が見たかったのに、どうしても見れなかったフィルタを持ってる人の絵を見ると、「わ! すげえ!」ってなるんじゃないのかなー。

──あ! そうですね。自分が見てた角度と違った景色だったり、もやもやしていたものをはっきりと絵なり、文章なりで表現しているものに出会うと、すごく感動します。

寺田 「こんな世界があったのね!」っていうのは、その人の視野で世界を見せてくれるからで、それを誰も見せてくれない限りは、自分で辿り着くしかない。でも、難しいでしょ。砂漠の中でオアシスを探すとの一緒だから。「たぶんこっち」って見当つけて向かっても全然違うかもしれないし、野たれ死にするかもしれない。

 誰かに「オアシスはこっちです!」って指し示されて初めて行ける所っていうのはありますよね。そうすると、同じ視野になるので、模倣に近づくわけで、「最初は模倣から」っていうのは、そういう意味ですね。
 もともと持っていないものを人から借りるわけだから、それはもうしょうがないっていうか、でも勉強のやり方と一緒で、一回方法を知ると、応用がきくので、「この人のフィルタの作り方はこっちに応用できるんじゃね?」って描いていくうちに、だんだん自分の絵になっていく。自分のフィルタを作り上げていくっていう作業が一枚の絵になっていくんですね。それは今日の話から先の「自分の絵って何なの?」っていう話になるので、そこはまだ先ですね。

──おお! 電車のおじさんを描く話から、先の話のさわりまで聞けた!

寺田 電車のおじさんの話に戻すと、オレはせっかちだから早く描きたいし、めんどくさがりだから最短距離に近づくにはどうしたらいいかって考えるんですよ。そのためには知っておいたほうが早いだろうなって、すごく当たり前のことをさも自分が発見したかのように言ってるわけですけど、まあ、そういう話ですよ! じゃあ電車でおっさん描いてきまーす! プシュー(ドアが閉まる音)


iPad向けのアプリ「procreate」で色塗り。
iPadでスケッチブックを撮って、その場で塗るというものです。

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聞き手 ヒヨコ舎 田中里奈

Profile

寺田克也
1963年12月7日岡山県生まれ。イラストレーター、マンガ家、ゲーム・映画のキャラクターデザイン等、様々な分野で活躍。著書に『西遊奇伝 大猿王』(集英社)、『寺田克也全部』(講談社)、『カバー・ガールズ』(ワニマガジン社)、『寺田克也式ガソリン生活』(朝日新聞出版)ほか。

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寺田克也 ココ10年
KATSUYA TERADA 10 TEN - 10 Years Retrospective -


テラカツ10年分の仕事を総覧できる豪華図録!

世界的人気を博すイラストレーター・寺田克也。カラーイラスト・設定画など約300点を展示する「寺田克也ココ10年展」が京都マンガミュージアムにて3/16~6/30まで開催されます。展示全作品に併せて展示公開されないお宝作品も収録。収録作品のすべてに寺田本人のコメントが付きます!