圧倒的な画力で描く、満月の夜のふしぎな物語『つきのこうえん』竹下文子さん&島野雫さんインタビュー
みなさんは「つきのこうえん」と聞くと、どんな景色を思い浮かべますか? 5月の新刊絵本『つきのこうえん』で、満月の夜に起こるふしぎな物語を手がけられた竹下文子さんと、竹下さんの物語を圧倒的な画力で表現された島野雫さんに本作についてお話を伺いました。
お母さんの手のような質感と温度
ー 物語が生まれた背景について教えてください。
竹下:出版社の方から、島野さんの絵で「優しい親子の愛情」をテーマにした絵本を作りたいということで、お声をかけていただきました。私はふつうテーマ先行で書くことはしないので、できるかなあ?と思いましたが、島野さんの描かれた絵を見ているうちに、この話が浮かびました。
ー 島野さんは、竹下さんからの物語を読んでどのように感じましたか? すぐに絵のイメージが湧いたのでしょうか?
島野:優しくて柔らかい、お母さんの手のような質感と温度を感じました。公園にいるシーンの構成や構図などが、ラフの段階では違ったのですが、ラフを見た竹下先生から「文字が語っている内容を、そのまま絵に置き換えるのではなく、もっと自由な、心象的なものになってもいいのではないでしょうか。」と言っていただいたので、ページ数も増えて、自由で楽しい公園のシーンを描くことができました。絵が完成してデザインに落とし込む段階になっても、竹下先生がテキストに手を加え、よりぴったりな表現に変わっていくのを目の当たりにして、とても感激しました。
ー 竹下さんは、島野さんの絵をご覧になられたとき、どのように感じましたか? また一番お気に入りの場面について教えてください。
竹下:最初にカラーで見せていただいたのが、冒頭のるなちゃんが猫を抱いている場面と、さくらんぼの木の上にいる場面で、ああこれはすごい!と思いました。ほんとは3日間くらいここにいて、広い公園のすみずみまで見てまわりたいです。
個人的には、猫が好きなので、ついつい黒猫ミモに注目してしまいます。
水彩と日本画の混合技法で描く
ー 『つきのこうえん』はどんな画材を使って描かれているのでしょうか?
島野:水彩と日本画の混合技法です。墨、胡粉、透明水彩絵の具などを使っています。着彩を進めていくと線がボケてくるので、水彩色鉛筆やパステルなども使って、線を起こしています。
ー 島野さんのお気に入りの場面について教えてください。また、描くのが大変だった場面はありますか?
島野:お気に入りの場面は、最初の見開きのるなちゃんがミモを抱っこしているシーンです。自分だけの絵本ではないので、緊張しながら紙の前に座ったのですが、るなちゃんとミモが可愛らしく描けたので、安心して筆を進めることができました。
描くのが大変だったのは、「つきのこうえん」に降り立った場面です。
どんな場所で、どんな遊具があって、こどもたちがどんな様子で遊んでいるのか……最初は想像がなかなか膨らまず、少しづつ少しづつ進めていきました。
それぞれの「つきのこうえん」
ー 主人公のるなちゃんや、黒猫のミモにモデルはいますか?
竹下:モデルはいません。るなちゃんの名前は、「月」のラテン語から。ミモは、色柄の指定なしで「ねこ」とだけ書いたのですが、昨年なくなったわが家の黒猫まりんの若い頃に似ていて嬉しかったです。
島野:子供を保育園にお迎えに行ったとき、居室で年少さんくらいの女の子たちが、シフォンの布を腰に巻いて走ったりジャンプしたりして遊んでいました。その様子が「つきのこうえん」のイメージと重なったので、るなちゃんにふわふわのスカートを履いてもらいました。
小さいころから猫が近くにいたので、毛がくすぐったい感じとか、体温やにおいなどを思い出しながらミモを描きました。
ー お二人にとってつきのこうえんはどんな場所ですか?
竹下:昔から昼より夜、太陽より月が好きで、月にはひんやりした「銀」のイメージがあります。月は重力が小さいので、浮遊感が楽しめそう。お気に入りのパジャマで行きたいところです。
島野:「暗いけれど怖くない、ほんのり温かくて、遠くで不思議な音がする。」そんな場所です。
ー 最後に読者へのメッセージをお願いいたします。
竹下:幼い頃、寝る前に読んでもらった本のことを、今でもよく覚えています。ごはんやおやつと同じように、物語を食べて私は育ち、いつか自分でも書くようになりました。空想する力は、ときには不安な現実を支えてくれます。子どもたちと、かつて子どもだった人たちが、今夜も安心して眠りにつけますように。そして、どうぞよい夢を。
島野:夜は暗くて怖いものですが、お布団に入って目をつぶれば「つきのこうえん」に行けるような気がします。絵本では描き切れなかった場所もたくさんあると思うので、自由に遊んでいただけると嬉しいです。