「あかちゃんからあかちゃんだったすべての人」に贈る絵本〜たなかしんさんインタビュー〜
3月22日に画家・絵本作家のたなかしんさんの最新絵本『だいじな あなた』を発売します。
発売にあわせて、たなかしんさんに本作のこと、また本作でも使用されている海の砂を使った画法についてお話しを聞きました。
ーー『だいじな あなた』では、「ねぇ あかちゃん」のフレーズから始まる、子どもへの愛情あふれる言葉選びが印象的です。どのように絵本の言葉を考えましたか?
もともとは『だれのあかちゃん?』というタイトルで制作を始めました。「だれのあかちゃん?」とクイズ形式で答えながら、あかちゃんに届けたい思いを綴るような絵本でした。たくさんの動物とたくさんの人種のあかちゃんが出てくることにより、かけがえのない命を平等に扱いながらも、最後の「わたしのあかちゃん」にだけは、やっぱり特別な思いをこめました。
ですが、クイズ形式よりもしっかりと愛を伝える絵本にするために、「ねえあかちゃん」と目の前の存在に語りかけるように言葉を選びました。
ーーたなかさんの作品の多くは、砂を使って描かれていますが、新作『だいじな あなた』も、海の砂の独特なテクスチャが印象的で温かみを感じます。海の砂を使って、絵を描き始めたきっかけについて教えてください。
もともと絵にテクスチャーをつけるのが好きで、色々な素材を試しました。市販の砂やガラス、ビーズなどのモデリングペーストを使用することからスタートしましたが、面白みが足りない気がして自然の素材へと変わっていきました。庭の土を掘って使ってみたり、落ち葉を砕いて使ってみたり。でもなかなか思い通りの画面にならなくて、行き着いたのが海の砂でした。
海の砂には、山から川を通って運ばれてきた岩や砂、海で育まれた貝や珊瑚のかけらなど、まるで地球そのものが含まれているような気がしました。
ーー砂絵の面白さ、難しさはどんなところにありますか?
まず準備が大変です(笑)。最初に市役所にいき、常識の範囲内(ショベルカーなどで大量に採ったりしない)なら使ってもいいとの許可をもらいました。片手で持てる程度の絵で使う量だけ採取します。採ったばかりの砂は磯の香りが強いのと塩分が多いので洗います。
完成した絵が臭くて、塩がふいてきたら嫌ですよね。しっかり洗ったあとは、天日に干します。そうすることによって太陽の温もりも絵に宿るような気がするからです。それを絵の具の下地材と混ぜてキャンバスに貼りつけます。乾いたキャンバスを手で擦り、接着が弱い部分は落としてしまいます。ここからようやく描き始めます。
海砂の下地はザラザラしているので筆がすぐにダメになるし、細いまっすぐな線も描きにくいです。でもそれが面白い画面に繋がっています。動物たちを描くときは、特にそのざらざらなキャンバスがまるで動物の毛並みのように見えます。自然の素材が持つ、温もりも感じてもらえるとうれしいです。
※『だいじな あなた』ができるまでの様子は、ぜひこちらのメイキング動画をお確かめください。
ーー 『だいじな あなた』でお気に入りのページはどこですか?
どのページも好きなのですが、表紙になっているパンダのシーンがこの絵本を考えるきっかけになったので思い入れがあるのと、ウサギの2ページ目が描けたときに、この絵本はいい絵本になるなと思えました。
それとアザラシのページ。存在しているだけで素晴らしい、生きてくれているだけで幸せなんだよってことが笑顔から伝わればうれしいです。
ーーこれまでたくさんの絵本を手がけられていますが、絵本を作る上で大切にしていることはありますか?
まず、自分が好きな本を作ろうと思っています。愛情を持って大切に描いていい本にしようとそれだけを願って描きます。それを一緒に好きだと言ってもらえるととても幸せです。
ーー最後に読者へメッセージをお願いいたします!
この絵本は「あかちゃんからあかちゃんだったすべての人へ」という思いを込めました。「ねぇあかちゃん」の部分を、お子さんのお名前に変えて読んであげるのはいかがでしょう。言葉がまだわからなくても心をこめて読んであげることであかちゃんにたっぷり愛が伝わると思います。
会話できるようになってきたら絵を見て、あかちゃんと親の姿の違いを探してみるのもいいでしょう。大きくなったらあなたはどんな姿になりたい?パンダさん?アザラシさん?それともママ?パパ?なんて話すのも楽しいかもしれません。
あかちゃんや子どもへ読んであげるのはもちろん、成長して様々な問題にぶつかったときにページを開いて、生まれたときこんなふうに思ってもらえてたんだと想像してみてください。
だってこの本は「だいじなあなた」のために描いた絵本なのですから
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『だいじな あなた』に込められたメッセージを、ぜひ絵本を通してお確かめください。