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    日本タイポグラフィ年鑑 審査委員インタビュー

    『日本タイポグラフィ年鑑2024』は、日本タイポグラフィ協会の審査委員によって選び抜かれた作品を掲載した書籍です。数多くの出品作品の中から実際どのように選考しているのか、審査中の審査委員の皆さまにインタビューを実施しました。(2023年11月2日取材)

     

     

    ―今年の出品作品の印象はいかがでしょうか。

    杉崎真之助さん: 一貫したデザイン理念で文化関連から企業のブランディング、情報デザイン、空間グラフィックまで、幅広く活動。真之助デザイン代表。大阪芸術大学教授。

     

    杉崎さん:いつも審査をするときに、まず全体を見るようにしています。畑で言えば、今年はどんなものが育っているだろうな、農家の人のように、作物は実っているかという感じでね。
    最初は均一に見えるけど、徐々に目立つ作品が現れてきますね。2024年分に関しては、まだパッケージ部門とグラフィック部門とロゴ部門しか見ていませんが全体的にレベルが高い。だから逆に優劣をつけづらい。特に悪いものもないんです。最終的にこれから作品が絞り込まれて、ベストワークを決める段階になってくると、その中でそれなりにその審査委員の気持ちを惹きつけたものが選ばれていくんです。そこで初めて、優劣をつける楽しさや、スリリングさが出てくるんです。だからこの段階ではまだ見えないな。全体的には水準が高いので期待できます。

    ―チップを置く(票を入れる)基準について教えてください。

    杉崎さん:例えば、誰が出品したか名前を見ないとか、時間が決まっているとか当協会で決めたルール以外では、僕はやっぱり単にいいものというか、水準が高いだけじゃなしに、何か一つね、引っかかるもの……。それは例えば個性的な作品であったり、アイデアであったりね。作り手が何らかのこだわりを持ってデザインしたものは、単に優劣だけじゃなく、やっぱり心に引っかかるものだと。基本的に好き嫌いでは選ばないようにしているんです。できるだけ客観的にね。基準としては、ちょっと普通じゃない魅力があるかどうか。表面的なことだけじゃなくて、作ってる人の思考、考え方の中にある、特別なアイデアなのだと思います。奇をてらうとかそういうことではなく。

     

    高田雄吉さん:CID研究所代表取締役/大阪芸術大学教授/主な受賞に、愛知万博誘致シンボルマークコンペグランプリ、ウクライナエコポスター&グラフィックトリエンナーレ奨励賞等多数。日本タイポグラフィ協会理事(元理事長)、日本CI会議体幹事、総合デザイナー協会理事。

    高田さん:僕はだいぶ違いますよ。今回、太田徹也さんが審査委員を抜けられて、僕が一番古い会員になりました。僕が感じているのはだんだん意図が明確ではない作品が増えてきていること。デザインというのは使う人見る人のためのものですから、消費者の立場に立って、意図が明確ではない作品に票を入れないようにしています。

    ―作家性を打ち出そうとするようなものなどでしょうか。

    高田さん:はい、何が言いたいのか分からないとかね。今回、日本語でも読めない作品がたくさんありました。もちろんデザインの良さ、新しさやアイデア、クオリティで判断しています。それ以外にちゃんと伝えられるか、言いたいことが分からないと僕は票を入れません。他の審査委員とは違うと思いますけど、いろんな審査の考え方があってもいいと思うんでね。

    ―意図が明確ではない作品が増えてきたのはなぜでしょうか。

    高田さん:やはり新規性と分かりにくさはちょっと似ている。分かりやすすぎると、新規性がなくなってしまいます。分かりにくくすることによって、不思議な魅力を出すような傾向にある。前年度の年鑑に入っている作品の傾向を見て出品されるので、それがちょっと増幅してきてるような気がします。

     

    高橋善丸さん:株式会社広告丸を主宰するグラフィック・デザイナー。大阪芸術大学デザイン学科長・教授。日本タイポグラフィー協会理事長、JAGDA、東京TDC、ニューヨークTDC各会員。

    高橋さん:毎年、出品点数が増えているので、選ぶ選択肢も広くなりレベルは上がっています。特にVI部門が非常に充実していて、レベルがだんだん上がっているんです。出品点数も多いですね。

    ―仕事の依頼のされ方が変わってきているということでしょうか。

    高橋さん:そういうことですね。作品を媒体毎に単品で見ると、どうしても技術力とかそういうところに集中するけど、VIになると何をやろうとしているかが非常に見えやすくなります。

     

    ―高橋さんのチップを置く基準を教えてください。

    高橋さん:大体皆さんとよく似ているとは思いますけども、もちろんそのクオリティがレベルに達していることと、そこにどれだけのオリジナリティがあるかということ。オリジナリティというのは要するに鮮度ですね、新鮮さがどれだけあるか。あるいはその中に制作意図がどれだけ反映しているかということになるかと思います。ただそのバランスのどこに軸足を置くかは人によっては変わってくるんですね。

    だから他の協会と日本タイポグラフィ協会の差別化として、皆さん何となく暗黙で認識しているのは、やはりコミュニケーション力にウェイトを置いていることです。他の協会の場合は、新鮮さに非常に高いウェイトを置いている風には考えられるけど、そこら辺が日本タイポグラフィ協会としての特色にもなっているかと思いますね。だから出品作品を見ているとよくわかるのですが、非常にリアリティのある、生きているデザインが多く出品されます。こういう作品は多分他の年鑑に出しても通らないだろうと思います。それは、要するにちゃんと出来ているということはあまり評価されない。ちゃんと出来ているかよりも、どれだけ鮮度があるのかの方がやっぱり審査のウェイトが高くなっていったりする。

    その点、日本タイポグラフィ年鑑の場合も、もちろんちゃんと出来ているだけでは駄目なのですけどね。ちゃんと出来るのはベースにあった上で、どれだけのオリジナリティや提案要素がその中に盛り込まれているかを見るので。審査時にぱっと目に留まって、ぱっと入れるのではなくて、目に留まったときに1回そこで、「何なんだこれは、これは何を言ってるんだ」ということは、探りますね。

    ―どのように探るのでしょうか。

    高橋さん:どこのメディアが何のために発信しているのか。例えばイメージポスターみたいなのが特にわかりにくいでしょう。全くその発信者もわからなければ目的もわからないようなもので、グラフィック力だけで勝負しているのはやっぱりあるじゃないですか。そういうときは、よほどそれが優れていれば、それはそれでもうOKの部分もあるのですが、そうでない、目的の見えない作品は票を入れることを控えることがありますね。

    ―目的と内容のわかりやすさは違うのでしょうか?

    高橋さん:2段階あって、例えば何かのイベントポスターがあるとします。これはイベントポスターでイベントの告知を目的としているのがまず第一段階、それすらも分からなかったら、何のためのポスターか分からないですよね。まずその第一段階の目的があってその次、この作者は何をセールスポイントに作ったのかという、そのもう一つ下の層ですよね。そこまで読み取れるとやっぱり評価しやすいですね。

    ―掲示を見たのですが、審査委員賞を既に2点ぐらい選ばれたのでしょうか?

    高橋さん:まだこれからも出てきますけども、意図がそこに見えたものと、これは上位賞になることが予想される作品は、最初からちょっと控える部分はありますね。審査の仕方は二通りあって、みんなで客観的に評価して最大公約数で決めていく大賞やベストワーク賞と、審査委員が個々に選ぶ決め方。ポイントが狭いけどピッとくるものは、ある層には響くけどみんなに響くわけではない。そういうものの評価を拾い上げるのが審査委員賞。審査委員賞はみんなが良いとは言わなくてもいいわけです。あるところに響くものがあれば、それを拾い上げる。

     

     

     

    ―中野さんのチップを置く基準を教えてください。

    中野さん:難しいですね……。デザインにはいろんな機能があると思うんですよね。まず一つはその誘目性。もう一つは内容を的確に表象しているか。それから目的に対して適切なデザインが施されているかが挙げられますね。例えばパッケージデザインには保存することや輸送時の耐久性、店頭で目立つか、伝わるか等様々な機能がありますよね。そうしたオーダー、目的に対してどのように形を統合していったかはそもそもデザインの役割だと思います。

    中野豪雄さん:武蔵野美術大学卒業後、勝井三雄に4年間師事。’05年よりフリーランスとして活動を開始し、’11年中野デザイン事務所設立。現在に至る。情報の構造化と文脈の可視化を主題に、様々な領域においてグラフィックデザインの可能性を探求する。

     

    審査の場合は既に出来上がったものしか見られないじゃないですか。そこから、どのように目的に対してアプローチしていったかを推測するしかない。もちろんそれがすごく分かりやすい作品もあるのですが、内容とデザインと目的がちゃんと線で繋がっているように見える作品には票を入れるように意識しています。さきほどグラフィック部門を審査しましたが、例えばある形が組み合わさることで文字になり、言葉になっていたとする。そのデザインが内容を的確に表象する形であり、目的に対して効果的な意味を持った言葉だとしたら、素晴らしいと評価できるんですよね。

    こうしたことが全部繋がっている作品はそんなに多いわけじゃないので、それを見つけるのがまず第一段階です。第二段階は、目的がよくわからないけど造形としてすごく面白いし工夫されている作品は、視覚的な印象だけでも可能性を感じれば票を入れますが、積極的なものではありません。一票の重みはそれぞれなのですが、置く数と票の種類は一種類しかないので個人の考えに基づいた評価は投票による審査の形式を取っている以上反映されにくいですね。ただやっぱり内容とデザインと目的がしっかりと繋がっているものに関しては必然的に票が集まってくるので、そういうのを見て、これはちゃんと評価されたんだなと思うとほっとします。

     

    ―「繋がっている」というのはどのように推測するのでしょうか。

    中野さん:あくまで推測の域を出ないことは変わりないのですが注意深く見ていけば気づくことが多いですね。先ほど審査を終えたばかりのグラフィック部門で見つけた作品では、細かな筆致で描かれたB倍ぐらいのポスターがあって、おそらく中国からの出品だと思うんですけど。山水画のように近景に川、遠景に山脈が描いてあったのですが、遠くから見ると山脈の形が漢字の「福」や「寿」に見える。連作を並べて見ると「福」「禄」「寿」と読めるんですよ。「寿」のポスターでは鶴が飛んでいて「鶴は千年」と言うように生命の象徴として描いているのかな、つまり生命という意味を山の描写と鶴が飛んでいる風景の中に重ねているのかなと具体的に推測できる。そこで漢字の意味から考えていけば、例えば「福」は幸福、「禄」は財産、「寿」は長寿と言ったように「福」「禄」「寿」の意味が言葉と絵の相互作用によってすごく伝わる。言いたいことと描かれているものが完璧に合致しているので、審査員賞にしたいなと思ったらみんなが票を入れていたので多分ベストワークになるなと思いました。

    (グラフィック部門ベストワーク)E-01 福禄寿新篇 The New fu lu shou |CD Hong Wei |AD Hong Wei |D Hong Wei |CL Zhuhai Guanci Culture and Creation Company

     

    あとはパッケージデザインでも例えばバレンタインのキャンペーンのときだけに発売するようなパッケージはとても分かりやすいですよね。去年の話なんですけど、粟辻美早さんの審査員賞を受賞した作品で「キツネとレモン」っていうモロゾフから出ているバレンタイン商戦のためのパッケージがあって、キツネが走っている様子が描かれていて箱の中にチョコレートが入っている。そこにある種の絵本的な物語性を感じます。そういうことを想像させてくれると、女性が男性に贈るときの気持ちを視覚的に上手く箱として表現してるのが伝わってくるので感動して票を入れます。

    票を置くスピードは割と早い方だと思います。見逃しちゃいけないなと思うのは、一見地味だけどよく見るとすごく考えられているものもあるんですよね。例えば箱にタイトルが1行しか入ってないんだけどもよく見るとスペーシングを熟考しているなとか、蓋を閉めたときの佇まいがすごく美しいとか、そういうのもあったりするのでちゃんと見ないといけない。ぱっと見地味なのですけどね。パッケージ審査だと1本何十万円もする大きなワインボトルがどんと置かれているとそれが目立つんですよ。それに比べると小さな箱は目立たない。でもそういうのは見逃しちゃうとまずいので、よく見たらすごく考えられている作品はなるべく探すようにしています。

    ―今年は出版委員長を担われています。

    中野さん:出版委員長として『日本タイポグラフィ年鑑』の出版全体の運営など取り仕切る立場なので、審査委員だけじゃなくて会場のセッティングや荷解きもしてすごく筋肉痛です。腰が痛くて足がパンパンです。

    ―去年よりも作品がさらに増えているのですよね?

    中野さん:全体的に増えていますね。海外からの出品やパッケージ、あとオンスクリーンがすごく増えていて、VIも少し増えていますね。

    ―やっぱり世の中の仕事の量と比例している部分もあるのでしょうか。

    中野さん:おそらくこれは日本タイポグラフィ年鑑の特徴なのですが、ニュースグラフィックがとても多いです。3Dを駆使したデータグラフィックスもあります。例えば朝日新聞からの出品で印象に残っているものとしては、ある少女が行方不明になった事件を画面をスクロールしながらどういう経緯で失踪したか全部地図上でドキュメントしていました。他にも日経株価の過去数十年分のデータが全部3Dでグラフ化されていて、アングルによって様々な傾向を読み取れるようになっていたり、変動のカーブをクリックするとカードが出てきて、過去の金利の動きが影響したからこうなったという細部まで全て解説されていて圧倒されますね。報道のデザインは社会的な責任が非常に重いので慎重にならざるを得ないと思いますが、読者を引き込むための創意工夫は独自の方法論として確立されてきていると思います。事実を伝えることに対するデザイン的な技術と方法論はとてもレベルが高い。

    (オンスクリーン部門ベストワーク)J-01 忽然 吉川友梨さんを捜しています Vanished Without A Trace ̶ We Are Searching Yuri Yoshikawa |CD 藤井 宏太 Fujii Kota |AD 原 有希 Hara Yuuki |
    D 加藤 啓太郎 Kato Keitaro |Programmer 佐藤 義晴 Sato Yoshiharu |CL 朝日新聞社 The Asahi Shimbun

     

    ―紙の本で紹介するのはなかなか難しそうですね。

    中野さん:限界があるのでしょうがないと思っています。逆に日本タイポグラフィ年鑑に載っていること自体がある意味価値ではあるので、そういう作品はなるべく個人的には拾っていきたいと思っていますが、いろんな人の票で載るかどうか決まるので僕がコントロールできないところです。

    ―そういう作品を本だけで紹介するのも何かもったいない感じがありますね。例えば電子書籍版だとリンクを貼るとか、そういう技術もありますよね。

    中野さん:オンスクリーンのニュースグラフィックスの多くは有料会員サイトなのでリンクを貼っても全員が見れるわけではないんですよね。日本タイポグラフィ協会主催でニュースグラフィックのセミナーを開いて様々な報道機関のクリエイティブディレクターに来ていただいて、どういうことをやっているかを話してもらうのが一番いいんだろうなと思っています。

    この有料会員向けサイトという仕組みはとても面白くて、元々紙媒体で新聞を読んでいる人は毎朝必ず決まった時間にニュースを見るけど、ネットではワード検索する人が今は多いので、有料会員はワード検索から引っかかる記事を最初に見てそこから色々な記事に飛ぶように設計されていると思うんですよね。特集記事は顔になる部分なので、日々更新されていく情報を追うだけではなく、過去の記事も集約し直してコンテンツ化しています。そのモデル自体が非常に良く出来ているなと感心させられます。こうしたジャンルは他の年鑑では見れないものなので、個人的にはこれからも注目していきたいと思っています。

     

    (取材協力:日本タイポグラフィ協会)

     

     

    日本タイポグラフィ協会公式サイト
    https://www.typography.or.jp/

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