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    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #1:佐藤亜沙美 <前編>

    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #1:佐藤亜沙美 <前編>

    本連載では『ブックデザイン365』に掲載した書籍のブックデザイナーに、より詳しいお話を伺います。

     

    最初にお話を伺ったのは佐藤亜沙美さん。2006年から2014年まで祖父江慎さんが代表を務めるデザイン事務所コズフィッシュに所属されていました。『ブックデザイン365』には、『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』、『野食ハンターの七転八倒日記』、『どうせカラダが目当てでしょ』、『観察の練習』……など11冊もの装丁を選ばせてもらいました。本インタビューではラフや色校などの貴重な資料も沢山お見せいただきました。どうぞ細部までゆっくりお楽しみください。

     

    ―2020年で独立されてから6年が経ちました。ブックデザイン以外のフィールドでもご活躍されていると思いますが、今でもメインのお仕事は書籍が中心ですか?

    8割は書籍で、残り2割は展覧会や広告、音楽の仕事です。一番楽しい仕事はやはり書籍ですが、周知の通り今後厳しい状況になる仕事でもあるので、新しいことにはどんどん挑戦していきたいと思っています。どうしても仕事がルーティンになると視野が狭くなるので、いろんなジャンルの仕事をすることで自分の仕事を俯瞰する意味もあります。

    それから各媒体で求められることやクライアントのテンションも違うので、一つの仕事に対して向き合い方も変わります。音楽業界と出版業界では仕事を進めるタイム感も違いますし、デザインに対しての作家やアーティストの意見の取り入れ方も違うように思います。

     

    ―『ブックデザイン365』に掲載している作品についてお話を聞かせて下さい。

    出版業界の最近の傾向として、発行部数が減り、ビジネス面でも全盛期のようにはいかなくなってきています。書店に本が置かれる際、以前はどうしたら良い位置に置いてもらえるかと制作時にも配慮していましたが、とりわけここ十年くらいで書店にも余裕がなくなってきていて、いかに書店で手に取ったもらえるかとということに注力するようになりました。そのような思考の中で実現したデザインが『やがて忘れる過程の途中』(NUMABOOKS)です。版元の方、編集者、著者と試行錯誤した結果、カバーはデジタル印刷で10パターン、色を変えて個体差を作り、実店舗でのみ色を選ぶことができるようにしました。

    10年前に作った『幸福論』(日経BP)は中身が同じで帯が6種類あったのですが「書店で混乱を招くので一種類しか書店に置けません」と言われました。「何冊か買ってしまった人から“同じものだと思わなかった”とクレームを言われて困る」とか、「書店員の仕事が増える」とか。その時はバーコードをamazon用に作ってもらってamazon限定で色を選べるようにしました。

    『やがて忘れる過程の途中』は書店に10種類置いてもらって、時々レジで「何色になさいますか?」と聞いてくれる書店員さんもいます。書店に行くことそのものがエネルギーの要ることになってきているので、書店に行く付加価値を持たせようと思ってプランしました。

     

    現在、又吉直樹さん描き下ろしのアンソロジー『Perch』の制作に携わっています。羽田空港の蔦屋書店のみで手に入れられるものです。中身はすべて同じで、表紙のカラーバリエーションがあります。書店で日付が付いたスタンプを押して完成します。2000部限定、活版印刷で古風な仕上がりです。最近は大手の版元に頼らないでも出版が可能な時代になってきていて、自由度も高くて魅力的だなと感じます。栞も表紙と抱き合わせて活版で刷ってもらいました。

    又吉さん、企画者、編集者、デザイナー、蔦屋書店さんとが密にコミュニケーションを取りながらイラストは誰にしよう、本文用紙はどれにしようと相談を繰り返しました。書籍は「静」のイメージが強いですが、少部数でその場でしか買えない「動」的な書籍に今すごく興味があります。隙あらば選択肢のあるデザインを提案しています。

    又吉さんの著書は普段、部数が多い分、ご本人が関われる範囲も限られるのだと思います。なので今回は又吉さんとディスカッションしながら、ご本人の思考や身体性が強く感じられるデザインを目指しました。この作品は場所も限定された初版限定販売ですし、大手の版元では不可能なこととしてお名前も漢字は使わずNAOKI MATAYOSHIとしました。たまたまその時間、その場所で何気なく手に取ってもらう目的もあるので、お名前を大きく示すものでないかたちになりました。

    『やがて忘れる過程の途中』に話を戻すと、本書もカバーを付けないので、汚れが目立つと改装しづらいという流通上の弱点を逆手にとって白地の表紙に少し色を付けて汚れを目立たなくしたいという点から端を発してプランしたものです。印刷所が廣済堂さんだったこともあって、途中からデジタル印刷プランに切り替えました。写真はシール印刷したのちの手貼りで、写真の下の見えない部分にも文字を入れました。オフセット印刷だとコストがかかりすぎてこんなにパターンを作ることはできません。

    これは最初にタイトルを決めるところからディスカッションをしました。謎なタイトルも含めてとにかく広げて、どんどん絞って、最終的にはこれだよね、と。

    著者である夫(滝口悠生氏)のデザインへの関わり方も、今までよりも深いものだったようです。小説は書くところまでが自分の仕事で、書籍になる場合は編集者とデザイナーに任せて、仕上がるのを待つという関わり方でしたが、『やがて忘れる過程の途中』は印刷立会に行ったり、タイトルを決めるために制作陣みんなで話し合ったり、デザインに対してコメントしたり。又吉さんの『Perch』もそうですが、普段は役割ごとにセパレートされている作業を、それぞれ関わるウエイトを増やしていった仕事になりました。

     

    ―以前、別のインタビューで、ブックデザインは“本文のノンブルを決めるところからはじめる”と聞きましたが、今でも変わりませんか?

    かつては細部まで手を入れなければ気が済まなかったのですが、最近はある程度のとこで少し手を放すようになりました。若い時の仕事をみると力みすぎているな、過剰すぎていたなと思うこともあります。

    レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』は著者の特性上、ほとんど編集者が執筆も含め構成しているのですが、デザイナーの私からは「日付を入れた方が分かりやすいのでは」とか「その日ごとに小見出しをつけるとより当時のこととリンクするかも」など、SNS上のやりとりを知らない読者の目線で誌面構成の提案をしました。SNSから派生した書籍はもともと無料で見られていたものを有料で買ってもらうことに対してのハードルがあるので、丁寧に作られていることを示すエクスキューズが必要だと思いました。

    デザインを依頼していただいたときに編集者からは「気合い入ってます! 売りたいです」と言われていましたが、私はなるべく一緒に仕事をしたことがない方と組みたいと思っていて、キャリアがある方ではなく、持込みをしてくださったイラストレーター仲村直さんに声をかけました。どんなイラストレーターさんも「いい絵を描きたい」という思いが強いのは当たり前だと思うのですが、そのモチベーションから出力されるものが良いイラストではあっても、装画として本屋さんに並んだときの強さがイコールではないこともあります。私は「書籍は小さくて製本されるときちんとまとまってしまうメディアだということもあり、少しやりすぎる位がちょうどいい」と考えているので、少し意識を変えてもらうように何度か描き直していただきました。

    本文デザインに関しても、カバーまわりのデザインやイラストのディレクションにしてもそうですが、できるだけ読者と同じゼロ地点になって考えることを心がけています。一歩その内容に入ってしまうと見えなくなることも多いので、制作中何度も自分の意識を引き戻すようにしています。

     

    現在は『レンタルなんもしない人の“もっと”なんもしなかった話』という続編 を制作しているところです。

    中編に続く)

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