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    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #1:佐藤亜沙美 <中編>

    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #1:佐藤亜沙美 <中編>

    ―『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)についてお聞かせください。

    こちらはキャリアのあるイラストレーターさんでしたが、書籍の装画は初めての方でした。「出会い系サイト」と「本をすすめる」という一見結びつきにくい言葉がタイトルに入っていて、小説なのかドキュメンタリーなのか得体のしれなさがあり、そこの距離の詰め方が難しかったです。表1には女性が欲しかったのですが、「出会い系サイト」という言葉と直結させすぎないように気をつけました。女性を売りにしていない方が作品と合っていると考えました。「出会い系サイト」と「本」というコントラストの高さがそもそも面白いので「本と女の子」を軸にしました。タイトルが長いのもキャッチーですし、可読性も大切にしたかったので、レイアウトは難しかったです。女の子が本に囲まれているとか、本の上に女の子が寝ているとか、現実と異化するような、ネットの世界の本の在り方みたいな感じのイメージを喚起させていきました。

    イラストのラフをやりとりするなかで互いにイメージを摺り合わせながら現在の形になりました。まず ラフで世界観を共有してから原寸に落としていきます。編集者とイラストレーターのコンセンサスを取るために原寸でラフを作ることが多いです。『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』の時と同じで、書籍のお仕事が初めての方とどうやりとりするかが課題でした。

     

    ―続いて『観察の練習』(NUMABOOKS)についてお聞かせください。

    NUMABOOKSさんは、他の版元さんとは違うアプローチのデザインができる版元さんで、普段出来ないことをやろうと提案した本です。判型は通常四六判がセオリーなので、何かそこに意外性やギャップが生まれるといいねという話になり、小さいけど上製とか、四六の並製じゃない感じを詰めていきました。仕様を凝ると自ずとコストがかかるので、値ごろ感に齟齬がないように白よりは黒の方が高級感があるかなとか、黒にするんだったら黒×黒とか、タイトルに隠蔽性を持たせた方が逆に面白くなるんじゃないかと考えました。「いかに読ませないか」という、普段はご依頼のとき「読みやすく」「分かりやすく」といったことに重きがおかれることが多いので、それとは違う攻め方をしました。はじめは超高速で表紙をめくるとタイトルが見えるようにしたかったのですが(※パラパラまんがのように1ページ目に残りが刷られていて残像で読める)、「目を細めてめくっても難しいかも…」と版元から言われてしまいました(笑)

    そこから試行錯誤をし、最終的に黒の地×黒のタイトルになりました。マットの地に対してグロスの箔押しをすることで少し階層に差を持たせるかたちになりました。私は「このようにしたい」とプランはしたものの、実現までには印刷会社の努力が大きいです。印刷面は黒で、抜きたいところは白、ベタの部分が箔で、合わせるときにトラッピングと言って太らせたり細らせたりしなければいけないのですが、これは反転してベタの中で抜いているのでいつものトラッピングと逆で地獄のトラッピング作業でした。一番の難関はエンボス紙に箔が定着しないという事故が起こったことです。何をやっても剥がれてしまい少し擦るだけで手に付いてしまうということが再校のときに起きてしまい、どうにもならないのでPPをかけてテストをしてもらいました。何段階も試行錯誤があり、マットPPとグロスの箔の組み合わせならギリギリひらくことが分かりようやくこれに落ち着きました。

    黒ベタのインキと箔が緩衝してインクが蒸発し、中に空気が含まれて取れてしまったのが原因でした。透明箔を乗せた状態のものも面白かったです。気泡が目立つのはノイズになるとか、見え方が強すぎるとか、紆余曲折がありました。これは本当に印刷会社の努力以外の何物でもないです。リスクの方が大きい仕事ばかりなので、まず印刷会社に「挑戦したい」と思ってもらわないと何も進みません。

     

    ―本文レイアウトも攻めてますね〜

    編集者と著者と何度かディスカッションしながら1年半くらいかけて組んでいきました。初めはフラットな組版でしたが、淡々としすぎないように、少しずつ変化を加えていきました。複雑な組み方なので、文字の修正がなくなった段階で手を入れるというプロセスで組んでいきました。

    あとは外側にコストがかかるので中は本文の刷り色を4色→1色→4色→1色にして、なるべくコストがかからないように工夫しました。

     

    ―通しで4色→1色ではないですよね。

    はい。写真がカラーでなくても伝わるところは1色に持っていきました。こういうときにコズフィッシュで学んだ台割の調整が役に立ちます。

     

    ―高価な装丁を実現させるために、本文ページの印刷費を節約したわけですね?

    それもありますし、4色である必要がないということもあります。文字パートを切り離してあげると、本が立体的に見えることもあるので、台割に合わせて本文組の方を調整しました。編集者に台割を渡して「今こうなっているので、ここに修正が入るとこの台割が崩れてしまう」などと、ものすごく密にやり取りをしました。

    台割の調整は祖父江さん仕込みです。『ファッションフード、あります』(紀伊國屋書店)は、冒頭は紙が違いますが、それ以降は同じ用紙を使いながら、年代ごとにインクを変えられるよう台割を調整してそれぞれの年代で各色インクで色がわかれるようにしています。図版の大きさを調整しながら、なんとか年代で分かれるようにしました。紙が変わってみえるように1%アミを下に引いています。そういう工夫はあの当時しかできないことだったのかもしれない……。これは祖父江さん考案のビジュアル台割という私たちが肝で使っているものです。

     

    ―なかなかデザイナーが手出しできない部分というか、どうしてもコンテンツありきで早い段階で諦めてしまっていました。粘るといいことがありそうですね。

    いまは習慣になっていて、台割から考えるようになりました。

     

    ―完全に本の編集作業ですね。

    そうですね。図録でも文字ものの書籍でも台割は16とか8とかで区切って構成していただくようなことも多いです。台割で編集者を振り回してしまうこともあります(笑)

    後編に続く)

     

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