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    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #2:水戸部功 <前編>

    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #2:水戸部功 <前編>

    本連載では『ブックデザイン365』に掲載した書籍のブックデザイナーに、より詳しいお話を伺います。

    今回お話を伺ったのは水戸部功さん。1万5千冊をデザインした装幀者・菊地信義氏を師として活動されています。『ブックデザイン365』には、『鯖』、『改良』、『1793』、『伝え方が9割』……など12冊もの装丁を選ばせてもらいました。本インタビューではタイポグラフィや配色など細部の話から、業界の展望、ご自身への課題まで、幅広いお話を伺いました。どうぞ最後までゆっくりお楽しみください。

     

    ―装丁家になったきっかけを教えてください。

    多摩美術大学の情報デザイン学科でメディアアートを専攻していて、教授が美術史家の伊藤俊治さんと写真家・美術史家の港千尋さんでした。劣等生でしたが、メディアアートを美術史や文化人類学などの知見を広げながら制作する、という工房でした。彼らの著書が戸田ツトムさん、松田行正さん、鈴木成一さん、菊地信義さんの装幀で、自然に触れていって、憧れとともにこの道に身を置きたいと思うようになりました。一方で学校とは関係なく自主制作としてポストカードやフォントを作ってグラフィックデザインを楽しんでいました。当時、フロッピーディスクに入るだけの容量(約1.4MB)のものをつくる「フロッケ展」というものがあり参加していました。そこで僕のことを見つけてくれた人がデザインの仕事をくれて、僕は本、装幀に対する憧れがあったので、「本の仕事がしたいです」と言って、編集者を紹介してもらいました。そこからですね。

     

    ―学生時代から仕事をされていたのですね。

    はい。当時メディアアートというと、センサーを使ってどうなるとか、プロジェクターを使ったインスタレーションですとか、モニター上で何かが起こるということがほとんどで、電源がないと何も表現ができないことが段々虚しくなりました。やればやるほど原始的な方に向かって行って、本は最も原始的なメディアアートだろうと思い至りました。デザインとアートは違うとよく言われますが同居させることができるのが本ではないか、そこをやりたいと考えました。当時はフライヤー制作やwebデザインなど色々やっていましたが、全部やめて本だけやろうと決めたのが大学3年生くらいの時です。

     

    ―本の編集の領域に興味はありますか?

    編集はできるものならやりたいし、徐々に出来そうな気がしてきていますが、まだまだ。デザインをやりながら出版活動もしている松田行正さんの著書などを見ていると無理だな、と思います。そもそもの素養の問題でしょうね……。

     

    ―どこにも就職せずに学生時代のお仕事からフリーランスになられたのですか?

    はい。デザイン事務所でアルバイトなどはしていましたが。

     

    ―特に営業活動もせず、実績でどんどんお仕事が繋がっていったのでしょうか。

    最初に編集の方を紹介して頂くまでは知り合いの人に「やりたい」としつこく言っていました。そこからは来た仕事で精一杯という感じです。

     

    ―菊地信義さんを実質師匠として事務所に出入りされていたと聞きました。

    卒業して次の年、23歳の時にはじめてお目にかかることができました。自分が仕事をした本を10冊くらい持って行って見てもらい批評していただく。その関係が今も続いている感じです。ですので、内弟子として菊地さんの事務所に在籍していたわけではなくて、あくまで僕は僕の仕事をして、それを批評していただく、外弟子という関係です。(編注:『ユリイカ2019年12月臨時増刊号 総特集=装幀者・菊地信義』に詳しい)つい先日まで、菊地さんの事務所がすぐ近くにあったのですが、今はご自宅でお仕事をされています。打ち合わせとか色々困ることがあるので週に1、2回ここ(※水戸部功事務所)にいらっしゃいます。今は僕と僕のスタッフでアシスタント的な仕事もしています。

     

    ―『ブックデザイン365』には水戸部さん装幀作品を12冊も掲載させてもらい、短いコメントもいただいていますが、もう少し詳しくお話を聞きたいと思います。何か資料など残っていれば見せてもらえると嬉しいです。

    ラフはほとんど捨ててしまってまして、すみません。思い出深いもの…セレクトの中には実はほとんどありません。自分はイラストレーションを使わないと勝手に決めてしまっているんですが、その中でも『鯖』とか『改良』あたりはイラストレーションとタイポグラフィの間みたいな形で、なんとか次の段階にいきたいという思いが出ているのかと思います。解説になるかわかりませんが、『改良』でいうと昨年の仕事『ポリフォニック・イリュージョン』(ともに河出書房新社)の応用です。

    その『ポリフォニック・イリュージョン』のぼかすという手法も、『社会学の使い方』(青土社)の応用です。

    『社会学~』はぼかすとかではなく単純に文字を歪めているのを、もう少し光学的にしたらどうなるか、現象を物質的にしたらどうなるかを考えたときに、ぼかすってのはあるな、と。さらに、単純にぼかすということでもなく、焦点距離の違った2枚の写真を一つの平面、本の重層的な構造を使ってできないかと考えて『ポリフォニック・イリュージョン』の形になりました。連作のように繋げていってしまうのが僕の悪いところでもあります。作品にあまり寄り添わないというのが一つのやり方でしょうか。

     

    ―編集者は水戸部節みたいなところを求めて依頼している部分もあると思います。

    作品に寄り添うとどうしてもイラストレーションが増えていくでしょう。寄り添うというのはテキストの内容にというだけではなくて、営業の方や編集者などみんなが安心するものに寄り添うという意味も含めて。どんどん角が丸くなって、個性を削いでいくことになる。後で詳しくお話しすることになるかと思いますが、僕はそうなるのがいいか悪いかで言うと悪いと思っています。

     

    ―それは本にとってもあまり幸せなことではないかもしれませんね。

    ひっくり返ってそういうことになるだろうと思っています。今まで見たことのないものが見たいとか、違う売り方をしていきたいとか、そんな声の掛かり方になるように自分を持っていかないと僕が思うような仕事も来なくなるでしょう。どういう仕事を呼び込むか、そのために今何をすべきか、そんなことばかり考えてます。実際、『鯖』にしても『改良』にしてもイラストがあった方が分かりやすいと思いますよね。偶然ですが、二冊ともデビュー作ですので、イラストを使ってこの作家の世界観がわかりやすくするという線は十分に考えられたことです。でも、「イラストを使わなくていいから、何かインパクトを出したい」という依頼だったと記憶しています。つまりこの作家の売り出し方を装幀から他とは変えたいという編集の意図が見えて、そこで声がかかったことが嬉しかったですね。僕自身、読者として本を見る時、または本以外の、服でもプロダクトでも、デザイナーの個性、思想が感じられるものに惹かれるので、自分もそうありたいと思っています。

    売上的にうまくいくものもあれば、もう一息…というものも出てきてしまいますね。どちらが良かったかは比べられないですから難しいですね。『ブックデザイン365』でこんなに取り上げてもらったのは意外でした。僕としてはブックデザインの中でどんどん極北に向かっているつもりでした。それほど数も多くやってないですし。

     

    ―いわゆる王道の装幀とは違うポイントで今回は選ばせてもらいました。意識的に水戸部作品を避けた訳でもなく結果的に12冊という数になりました。

    逆にそのポイント、突っ込んで聞きたいところですね。機会があればお願いします。でもこの編集、撮影も含め、大変だったろうなと思います。雑誌『アイデア』No.387で少し前にブックデザイン史を編集して、まあ大変だったので……。批判も多くありました。勝手に選ぶわけですから、暴力的な側面もある。性質の違う企画だと思いますが、それほどかけ離れた印象ではなかったところがとても興味深いです。

     

     

    ―表1から背表紙、さらに表4まで区切らないでビジュアルを展開していくのが水戸部流の一つかなと思います。平面的なものではなく立体的なものとして思考されている部分はありますか?

    際を使って何かをしたくなるのは単に癖かもしれないです。表1だけ、背だけとパツンパツンとなるのは避けています。連続性は無視できません。立体物という本の特性をうまく利用するのは装幀の基本だと思います。それと、帯の高さを考えるときは背の文字の入り方を基準にすることが多いので、表1と背が自然と繋がってくる部分があります。

     

    ―背表紙を先にシミュレーションしてから大体の帯の高さを決めるのですか?

    大体そうですね。文字を変なところで切りたくないので。表1においては帯を取った時の姿が帯の存在を感じさせないようなレイアウトにする。というのは、新聞や雑誌の書評に掲載される書影は帯を外されることがほとんどなので、帯を取った状態でも全体のバランスが崩れないようにしたいんです。そういったことを考えていくと帯の高さは自ずと割り出されます。

     

     

    中編に続く)

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