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    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #2:水戸部功 <後編>

    『ブックデザイン365』Book Designer Interview #2:水戸部功 <後編>

    ―書体選びについてお聞きします。シンプルに好きな書体やよく使う書体があれば教えてください。

    癖のある書体はまず使いたくないと思っていて、とにかくオーソドックスなものを選びます。誰でも使えて癖がないと思うもの。よく使うのはモリサワの太ゴと中ゴシックBBBです。書体に個性がないものを使う理由は、余計な要素に目が行かなくてよくなるためコンセプトだけが浮かび上がるのです。書体の情報は要らないというか、記号として使う。明朝体ではMM-OKLが美しいと思っているので、形が近いリュウミンオールドがなを使っています。

    あとは今デジタルフォントで使えるもので遡れるのは築地体、僕がよく使うのは築地体後期五号仮名という書体なのですが、築地体を源流とする書体で十分だと今は思っています。

     

    ―極端な話をするとフォントワークスの筑紫明朝まではいかないというところですかね。

    書体の個性に寄りかかることになるのであまり……でも時々使っています。タイトルでは使いませんが細かいところで。

     

    ―一方で『マイク』(小学館)の書名はオリジナルですよね?

    描いたものです。

     

    ―そういうこともされるのですね。『マイク』は水戸部さんの作品と思って取り上げたわけではなかったので本当に驚きました。。

    そうですよね。らしくないと思っていますが、児童文学ということもあり、やっぱりここは自分らしさなんて捨てるべきだろうと思い至りました。最初は既存の太めのゴシックにしていたのですがどうにも売れそうな顔にならず……。可愛らしくしたり、イラストを使うことを何故やらないかという理由の一つに単純に下手だからということもあるんです。他に上手な人がいるからその人がやった方がいい、そこを無理してやるよりは違う方向に持って行った方がいいと考えています。

     

    ―『』(徳間書店)のようなタイポグラフィは、究極のロゴとも言えるかもしれません。そのあたりの境界は難しいですが。

    たしかにあれは同じようなところかもしれません、一文字です。

     

    ―ほかの書体も別に必要ないという感じでしょうか? 流行している書体で例えばモリサワでいうとA1ゴシックについてご感想はありますか?

    角が丸すぎますかね。もう少し丸くなければ何とか使える気もするのですが。『マイク』はまさにA1ゴシックの一番太いものをタイトルに使っていた気がします。可愛らしい、丸ゴと通常ゴシックの間みたいな雰囲気で、クラシカルな形ですから今の時流に合った、売れる書体だろうなと思います。ただ、僕からすると逃げに思えてしまう。あくまで自分の仕事ででの話ですよ。

     

    A1明朝はいかがですか?

    出始めたときは少し使っていましたが、あの書体を使うなら自分で作った方がいいと思いました。

     

    ―そんな意識ができるかできないかが大きいですね。僕は納期が迫っていたりするとそのまま使ってしまいます。その位タイポグラフィの意識が高まってきたら、世のデザインも変わってくるのかなとも思います。

    単純にあまのじゃくなだけかもしれませんが、A1明朝もA1ゴシックも、巷に溢れているのでやめよう、という部分もあります(笑)

     

    ―色々な出版社や編集者がいると思いますが、こういうところをこうして欲しいなど、出版社に対して望む点は何かありますか?

    報酬に対しての不満というのも特にないですし、進行も、むしろこちらが迷惑をかけてばかりいるので……(苦笑) 「デザイン案を何個も出して」というのはナシ、それくらいです。

     

    ―『ブックデザイン365』で、他のデザイナーさんの作品で気になるものはありましたか? 普段書店に行って「この装丁いいな」と思って買うことはありますか?

    他の人のことは正直あまり気になりませんが、例えば「写真を使って」とか「ポップにしたい」などの依頼が来たときなどは、類書やそういった本で成功していもの、失敗しているものを見て参考にするとか、今どれが一番いいか見て、それに劣るようでは駄目という思いがありますから、そういう意味では気にして見ていることになりますね。その中でも、いつも関心してしまうのは大島依提亜さん。スタイルに固執しないで、印刷、加工含め最大限上質な物を作っている印象です。デザイナーとして一番正しい姿なのではないかと思います。映画のポスターやパンフレットを見ても、成果物の質の高さは抜きんでている感じがあります。

     

    ―シンプルな質問ですが一か月に何本くらい装丁のお仕事をされていますか?

    14~15冊だと思います。2019年12月からスタッフが一名入りましたのでもう少しできればと思っています。まだ僕自身が不慣れなところがあるので情けないのですが、教えるのは難しいですね。今の僕の状況が必ずしも正しいわけではないと自覚していますから、今日申し上げたような僕の考えを押しつけたくない。伝えることは伝えて、あとは自身で取捨選択してもらうしかないです。

     

    ―雑誌『ワンダーJAPAN』のクレジットに水戸部さんのお名前がありました。雑誌のレイアウトや、例えばCDジャケットなど他ジャンルの仕事への興味はありますか? 実際に仕事を受けていますか?

    雑誌は今『短歌』(角川文化振興財団)をやっています。もちろん依頼があれば雑誌の仕事もしますが、単純に依頼がないだけです。広告は何の広告か、何を求められるかですね。いずれにしても、やるとなるとどっぷりやらないといけないでしょうから、普段の装幀の仕事で精一杯の中それをやるのは無理があるかなと思っています。

     

    ―最後の質問です。仕事とは別にそれ以外の表現をやっていきたいという話もありましたが、ご自身への課題はありますか?

    装幀での表現をどこまで持って行けるかが装幀者として生き残る道になると思っています。仕事を成立させるのが目的ではなく、もっと極端に。そうじゃないと見ている方も面白くなくない?と思います。あれもこれもできる、色々やれるけど結局真似事で終わっている人が多いですしそれが許される世界でもあります。僕もそうなってしまっている部分もあります。どの世界もそうかもしれませんが、ブックデザインの世界も、数人の開発者と大勢のジェネリック生産者でできています。

    互いに影響しあって、集合知なんだからオリジナルなものなんて一つもないとも言われています。たしかに僕もその集合知という幹から生えた枝葉の一つです。先達の仕事を見て、血肉にして、今がありますので。ただ、極端な人、逸脱した人がその幹の幅を作ると思っています。どれだけ極端になるかその振れ幅が大きければ大きいほどより太い幹をつくる。小さな幹の中だけでやっている人ばかりになってしまうと停滞してつまらない世界になってしまうでしょう。僕だけが作れる幅をどれだけ広げられるか、ですかね。

     

    (完)

     

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