ノアンティクの夢物語 第3夜「ジャルディニエールの夢物語」

街の隣にある大きな森のどこかに、妖精たちが住んでいる村があるそうです。
しかし、ほとんどの人間は彼らの姿を見たことが無いため、存在を信じるものは多くありません。
暗く湿ったアパートに閉じ篭る友達のいない寂しい少女も、人々と同じく妖精を信じていませんでした。
ある日、少女が目を覚ますと部屋に置いてあったジャルディニエールに見覚えのない紫陽花が飾られていることに気が付きました。
よくよく見ると、モンシロチョウの羽が生えた小さな白い妖精がどこからともなく花を持ち込んで自由気ままに花器に飾りつけていたのです。
妖精は毎日やって来るようになりました。
花を飾り、少女の笑顔を見て満足すると、森へと帰っていく日々が続きました。
はじめは驚いていた少女にとって、いつしかそれは日常の癒しになっていました。
妖精が部屋に通い始めひと月半ほど経ち鮮やかな紫色の紫陽花はすっかりと茶色く色褪せてしまいました。
いつものように目を覚ますと、妖精は飾りかけのローダンセの花を手にしたまま眠っていました。
そっと触っても、声をかけても、そこから動くことはありませんでした。少女は静かに泣いたあと、せめてもの恩返しにと、お葬式をすることにしました。
花で溢れ、美しい装飾が施されたジャルディニエールは、小さな友人の棺にぴったりでした。
“ジャルディニエール”とは
主に、花や植物を飾る器として使用される。
フランス語で庭師や植木鉢という意。
text:まくらくらま
次回の更新は8月下旬の予定です。お楽しみに。