ノアンティクの夢物語 第5夜「シルエットの夢物語」

亡霊画家
全身の半分が、強い光に照らされてできた濃い影のように真っ黒な男がいました。
彼は”シルエット肖像画”を専門とするシルエット画家を生業としていました。
亡霊のように生気を失った顔をしていることもあってか、彼を知る者は彼のことを「亡霊画家」と呼びました。
しかし、そう呼ばれる理由は他にもありました。
彼は死んだ者のシルエット(影)を映し出す特別な力を持っていたのです。
死体でも、墓に入っている者でも、既にこの世に形が残っていない者でも、彼に呼ばれた亡霊は、不思議なロウソクに照らされると真っ黒な影として姿を現します。
その影を丁寧に切り取り、シルエットポートレートとして額に収め故人を想う人の手元に残すことができるのでした。
“シルエットポートレート”とは
横顔の輪郭を黒い紙で切り取る、または黒く塗りつぶす肖像画のこと。
18世紀ヨーロッパで、エティエンヌ・ド・シルエットという人物が、安上がりで済むこのような切り絵の肖像画を好んだため人々の間で「シルエット」と言われるようになった。
text:まくらくらま
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