ノアンティクの夢物語 第8夜「くるみ割り人形の夢物語」

粉砂糖のような雪がぱらぱらと降る寒い冬がやってきた。
街の人々はクリスマスに向けて、心躍らせながら着々と準備を進めている。
サンタクロースは、今年も大慌てで子供たちのためにプレゼントの用意をしているようだ。
子供たちはサンタクロースの話題で持ちきりだ。
そしてもう1人、密かに子供たちの間で噂される優しくも冷たい魔女がいる。
彼女がつくるのは、”呪いのくるみ割り人形”。
それは、悪い大人に人形と同じ苦しみを与えるものだ。
クリスマスの時期になると子供たちの願いを聞き、憎む大人に呪いをかけてくれる。
12月24日の夜、涙を浮かべた1人の少年が彼女の元へとやってきた。
「魔女さん。毎日ぼくに暴力をふるうパパをどうか、くるみ割り人形に変えて」
「もちろんいいとも。だけど、対価はきちんと貰うよ。お前の可愛い耳をひとつ、私のドレスに飾らせておくれ。」
少年が耳を差し出し、魔女が彼の父親に呪いをかけると、外からは、息子を探す父親の断末魔が聞こえた。
“くるみ割り人形”とは
15世紀頃から既に存在したとされ「くるみを割る人形」として作られたドイツを代表する伝統工芸品。
権力に抗えない貧しい民衆が王様や官僚を模して人形を作り、固い殻付きのくるみを押し込むことで鬱憤を晴らしたとも言われている。
現在よく知られる形のくるみ割り人形は、ザイフェンのヴィルヘルム・フリードリッヒ・フュヒトナーが1870年に作り始めたものである。
くるみ割り人形といえばクリスマスというイメージが定着したのは、バレエ舞台『くるみ割り人形』がクリスマスの物語のため、この時期の風物詩的演目としてヨーロッパを中心に親しまれてきたからである。
text:まくらくらま
次回の更新は1月中旬の予定です。お楽しみに。