#今月の本屋さん 平惣 徳島店(徳島県徳島市)

紙の卸問屋として徳川吉宗の時代に創業(!)し、現在は書店業を営む企業が徳島にあるのをみなさんはご存じですか? 歴代社長が創業者の名前「平野惣吉」を事業承継時に襲名し、現在8代目の平野惣吉さんが代表を務める企業、株式会社平惣(ひらそう)さんです。今回はその平惣さんが営む平惣 徳島店を紹介します。
平惣 徳島店は、徳島空港から車で30分、徳島駅からは10分程度のところにあります。幹線道路の国道11号沿いのため、車でのアクセスが便利です。ライオンのロゴマークがかわいい。
入店すると、明るくて広い店内です。正面の話題書棚では、湊かなえさんの文庫『告白』(二葉文庫)の300万部突破記念限定カバーや、『田所あずさ写真集 余白』(主婦の友社)などが展開されています。声優の田所さんによる特典お渡し会が12月にあるようです。
こちらは徳島の月刊誌「タウトク」と「CU」を中心に、さまざまな徳島の情報誌が並んでいます。個人的には『徳島の家』が気になります。
こちらでは『素顔のとくしま、紡ぐ物語 めぐる、』(株式会社あわわ発行)が面になっています。徳島の会社や伝統、ものづくりの事業承継をテーマにしたり、社員食堂や朝食に立ち寄るお店など「はたらく人とごはん」をテーマにするなど、徳島に生きる方々との距離が近く感じられる素敵な情報誌です。
瀬戸内寂聴さんを偲ぶ棚。瀬戸内さんは徳島県徳島市のご出身でした。お亡くなりになられてからちょうど一年が経ちます。
児童書の棚も充実しています。
児童書棚では羽尻利門さんの新作絵本『パノラマずかん運転席』(パイ インターナショナル刊)が多面展開されています。羽尻さんは徳島県にご在住で、今日はこの絵本の原画展初日であり、トークイベントがあるのです。
こちらが原画の一部。まさにパノラマ。全ページ観音開きという前代未聞の製本なのです。原画の周りには参考にした資料の関する情報がビッシリ。なかなか見られるものではないので、お近くの方はぜひ平惣さんへ。原画展は11月30日まで開催中です。
トークイベントには徳島ご出身の絵本作家、くすのきしげのりさんもご登壇され、参加者のみなさん、笑顔のうちに終了しました。
こちらの男性が今回のイベントを企画された八百原勝店長。イベントに来たお客様向けに販売する本を忙しく並べています。八百原さんに「県外から平惣徳島店に来たお客様にぜひ見て欲しいという本棚はありますか?」と伺ったところ、「それはもうここ!」とおっしゃったのが次の写真。
「木頭ゆずフェア」です。なぜ本屋さんで柚子のフェアを? と思いましたが、これには深い訳があります。
木頭ゆずは徳島・木頭の名産品であり、今でこそ日本全国でゆずは栽培されています。しかしかつては「桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿十八年」と言われるほど実がなるまでに時間がかかり、商品として栽培することは困難でした。しかし昭和30年代、貧しい生活をしていた住民のために、徳島の特産物を創り出せないかと考えた青年たちが、知恵と不屈の意思で柚子の人工栽培に成功します。この感動的な実話を小説にした書籍『奇跡の村 木頭と柚子と命の物語』(角川書店)を中心としたフェアでした。
この『奇跡の村』は発売後に平惣さんで2年連続総合一位となるベストセラーとなりました。さらに、八百原さんからポプラ社の営業担当者さんへのご提案がきっかけとなって、このエピソードを絵本にした『黄金の村のゆず物語』(ポプラ社)が刊行されることとなりました。本記事が掲載される頃には絵本もこの棚にお目見えしていることと思います。
八百原さんはこうもおっしゃいました。「『地域社会を文化で結ぶ』が社是であり、僕は本を通じて地域社会を結びたい。著者や出版社の世界観を、本を通じてお客様に伝えていくこと。本の魅力を伝えていきたい。本当の仕事とはこういうことだと思っています」。めちゃくちゃ熱いです。元気をいただきました。私たちも頑張ります。
徳島市のお隣の小松島市では、12月24日、25日に「絵本ワールドinこまつしま」が開催されます。羽尻利門さん、くすのきしげのりさんなど、大勢の絵本作家さんが出演するイベントです。この機会に文化に触れられ、柚子や海の幸、うどんもおいしい徳島を訪れてみませんか?
(個人的には徳島のソウルフード「フィッシュカツ」が刺さりました。お酒のお供に最高です)
平惣HP:http://www.hirasoh.co.jp/
(文:PIE三芳寛要 写真:PIE三芳寛要、PIE猪俣大樹 撮影日:2022/11/12)
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