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    真鍋博 本の本 公開座談会 <前編>

    真鍋博 本の本 公開座談会 <前編>

     
    松村:
    本日進行を務めるパイ インターナショナルの松村と申します。『真鍋博 本の本』刊行記念の公開座談会をはじめます。スピーカーのお一人目は真鍋真先生です。今日はどちらにいらっしゃいますか?
     
    真鍋真:
    今日は実家から母の真鍋麗子と一緒に参加します。隣に座っているんですけど画面には恥ずかしがって出ていません。
     
    松村:
    真鍋博さんのご夫人・麗子さんにも同席いただけるということで心強いです。お二人目は、ブックデザイナーの川名潤さんです。川名さんは、真鍋博関連の復刻本のデザインをされたり、大ファンでいらっしゃるということで、今回お誘いしました。ブックデザイナーならではのコメントを期待しております。三人目は五味俊晶さん。『真鍋博 本の本』の編著を担当していただきました。

     
    <プロフィール紹介>


    真鍋真さん
    1959年東京都生まれ。イギリスのブリストル大学の理学部地質学科で博士号を取得。94年から国立科学博物館の地学研究部に勤務、現在は副館長を務める。化石から進化を読み解こうと、恐竜など中生代の爬虫類、鳥類化石を見つめる。恐竜や古生物の図鑑・書籍を多く監修。真鍋博の長男。
     
    松村:
    近刊は『きみも恐竜博士だ! 真鍋先生の恐竜教室』です。子供でも読めるようにルビがふられた本ですが、大人が読んでも楽しめる内容でした。あと、代表的なところですと学研の『恐竜学』ですね。多数の著書を出版されていらっしゃいます。

     
    <プロフィール紹介>


    川名潤さん
    1976年千葉県生まれ。プリグラフィックスを経て2017年に川名潤装丁事務所として独立。書籍の装幀や雑誌のエディトリアルを数多く手がける。
     
    松村:
    最近は月に何冊くらい装幀のお仕事をされていますか?
     
    川名:
    だいたい10から15冊くらいです。
     
    松村:
    お忙しいところありがとうございます。真鍋博関連でいうと、『新装版 真鍋博の鳥の眼 タイムトリップ日本60‘S』が毎日新聞出版からあり、川名さんがリデザインされています。それと『真鍋博の植物園と昆虫記』は、『植物園』と『昆虫記』の二冊の合本版を筑摩書房が文庫化、その装幀を担当されました。右の作品は、真鍋博の文庫が3冊ぴったり入るようなケースを真鍋麗子夫人からオーダーされたとうかがいました。
     
    川名:
    そうですね。『植物園と昆虫記』が文庫で出たタイミングで、ほかの2冊、『超発明』と『真鍋博のプラネタリウム』、その3冊が入る函を作って、麗子さんが配りたいとおっしゃっていると編集者から聞き、「あ、じゃあ函つくりましょうか」という流れで制作しました。多分、100個位しかないんじゃないですか。
     
    真:
    真鍋博の展覧会でノベルティとして配布しました。30個位ですかね。
     
    松村:
    このデザインを拝見し本当に素敵だなと思ったんですけど、こういった真鍋博関連の仕事を多数されている川名さんでした。

     
    <プロフィール紹介>


    五味俊晶さん
    島根県立美術館学芸員。1986年東京生まれ、長崎歴史文化博物館や愛媛県美術館を経て現職。
     
    松村:
    栗原玉葉』は図録ですか?
     
    五味:
    そうですね。図録兼書籍という形です。
     
    松村:
    この美しい本は長崎にいらっしゃったときのものですね。あと愛媛では、私も携わらせてもらった『真鍋博の世界』があります。進行の松村大輔はパイ インターナショナルでデザインと編集をしており『真鍋博の世界』と『真鍋博 本の本』についてデザインと編集を担当しました。次に真鍋博について、詳しくない方にむけて、年表を用意しました。


    真鍋博さん。愛媛県の別子山村(現在の新居浜市)にお生まれです。多摩美術大学卒業後、イラストレーター・エッセイストとして多方面でご活躍され、シャープな線と細やかな色指定を武器に、広告媒体のデザインや、書籍の装幀・挿絵を数多く手がけられました。五味さん、なにか特筆すべきことはありますか?
     
    五味:
    世代にもよるんでしょうけど大阪万博のイメージが強いかと思います。

     

    松村:
    まず、真鍋博がどのようにして出版の世界へ向かったのかを五味さんに教えていただきたいと思います。
     
    五味:
    真鍋博は現在の多摩美術大学に在籍、基本的には洋画科で油絵を描いていました。書籍をつくるきっかけは、1955年にグループ「実在者」という美術団体を池田満寿夫と堀内康司と作り、その延長線上で 『5人の片目の兵隊』という本がつくられます。これは真鍋博がデザインし、池田満寿夫が詩を書いて、奈良原一高が写真をつけているもので、こういったものから、印刷技術の面白さに目覚めていきます。ただ『5人の片目の兵隊』の刷部数は、最大でも43部位と考えられています。そうした限定的な、たとえばリトグラフ等に対して真鍋は少し批判的なところもあったので、どういった芸術の形がいいのかを模索していくことになります。

    川名:
    リトグラフに批判的だったいうのは、数が少ないという意味ですか?
     
    五味:
    そうですね。もともと油絵というのは1点ものなので、それを作って何の意味があるのか、というところに行き着きます。画廊で展示してもあまりお客様が来ない。印刷技術を使っていくと、いろいろな方に見てもらうけれど、リトグラフという方法も、たとえば池田満寿夫はその方向にいきますが、逆に限定されているんじゃないかという思いを持っていたようです。池田満寿夫と真鍋博は進む道が変わっていくのですが、たとえば、ユリイカの伊達得夫さんをはじめ、いろいろな方との出会いがあって出版の世界に向かっていきます。
    たとえばこういう漫画ですね。

    イラストレーションを含んだ漫画を作ったり、書籍の装幀に踏み込んでいきます。重要なのは『日々の死』という書籍だと思います。これは表紙と裏表紙の草のところから人間の頭が生えるようなデザインで、かなり若い真鍋博が好んで使っていたデザインです。非常に画期的なデザインで、こういったセンスが多くの人に認められつつ、出版業界の中で花開いていきました。

    川名:
    この本は、帯がつくとイラストが完全に隠れるんですよね。帯にキャッチコピーとタイトル文字が入って、上が真っ白という状態で置かれてたんじゃないかなあと思います。
     
    五味:
    本当に良いデザインですし、挑戦していこうという姿勢が見受けられます。おそらくこのあたりが始まりだったと思われます。

     

    松村:
    『真鍋博 本の本』を作るきっかけについて五味さんにお伺いします。
     
    五味:
    2020年、松村さんと一緒に仕事をさせてもらった時は、美術館での展覧会だったので、原画作品が中心でした。真鍋博は、いろんなものを丁寧に保管していたのですが、残ってない原画もいっぱいあるんですよね。掲載できない作品が結構あって、そうしたなかで真鍋博の書籍だけにスポットをあてたものというのは重要なんじゃないかなと思っていました。それには理由が二つあって、一つが装幀という仕事が当時の画家の人たちにとってすごく重要な仕事だったんじゃないかな。と思うところです。


     
    たとえば、源氏鶏太という小説家が書いた『重役の椅子』という小説は、会社の派閥争いを書いた小説で、真鍋博の他にも、洋画家の高間惣七とイラストレーターの鈴木義治という方も装画を担当しています。テイストが全然違うんですけど、それぞれのイメージで描いていて。やはり画家の作風を表しているわけですし、画家を考える面でも、装幀は意外に重要だと思ったのがきっかけです。
     
    川名:
    装幀の仕事を装幀家が担う流れが、まだできてない頃じゃないですかね。装幀家という職業がきちんと確立してない。だいたい編集者が自分でやってしまうか、画家にお願いして文字を入れるところまでやってもらうか、そういう選択肢で本を作っていた時代がこのあたりだと思います。1950~60年くらい。
     
    五味:
    真鍋博を含め、皆さんまだ有名じゃなく、そこまで画風がかたまっていない時、若手時代にこういう仕事をやっていたり、別の方向にいく方ももちろんいて。忘れ去られてしまう作品もあるのですが、少なくともこういう仕事に気づいていくことが重要なことなのかなと思います。

    もうひとつ樹下太郎の『銀と青銅の差』という本で、左側にあるのが本のカバー、右側が国立国会図書館が所蔵している本の本体表紙です。制度が変わってきているので一概には言えませんが、国会図書館に納本される本は基本的にカバーと帯は捨てられてしまっているものがあります。たとえば真鍋博の本を見たいと思って国会図書館に行っても基本的にカバーと帯が無い状態で出てくる。個人的には、本は内容だけじゃなくて、カバーであったり袖であったり、いろいろなものが総合されて本という存在になると思っています。意識的に集めていかないと、そういったものが忘れ去られる現状があるんじゃないかなと思って、今回『本の本』を作ろうと思った次第です。
     
    川名:
    作ってる側としては、本当は帯まで取っておいてもらいたいんですけど。
     
    松村:
    フフフ(笑)
     
    川名:
    最近は国会図書館もカバーまでは保管しています。ある時期から昔のものは表紙だけの状態で置かれてますね。
     
    五味:
    真鍋のデザインが一筋縄ではいかない部分がありました。たとえば、エラリー・クイーンの国名シリーズのひとつ『フランス白粉の謎』は原画が残っていません。いまいち理由はわかりませんが、版を重ねるごとに表紙のデザイン要素を足していってるのが分かります。最初このお化粧台だけだったのが(1968年10版)猫が入ってきて、(1972年21版)お化粧台のうしろに街並みのデザインが入ってくる。(1987年57版)なんらかの変化があったのかもしれないのですけどこういった事例は本書の中ではあまり触れられていません。


    川名:
    謎ですね。版元からの要請でちょっと変えることはあるとは思うんですけど、その場合はもっと大胆に変えるはず。この位の微妙な変化は、おそらく真鍋さん本人が「変えるのであればこうしたい」と希望したんじゃないかと想像します。
     
    松村:
    57版とされる1987年バージョンで書名が上にきているというのは、明らかに編集からのオーダーと感じます。
     
    川名:
    ありがちなオーダーですね。
     
    松村:
    猫を増やすのは……ちょっとわからないですよね。本当に。
     
    川名:
    装幀してると、あるんですけどね。単純にキャッチーさをだすために「猫を入れてください」みたいな話とか。この頃もあったのかな。(笑)
     
    五味:
    そういう遍歴とかも残していきたい。このように並べてみるとその変化が分かりますね。

     

      
    【真鍋博が手がけたハヤカワ・SF・シリーズの魅力】

     
    松村:
    ここからはテーマごとに、皆さんにお話いただきます。ひとつ目のテーマは真鍋博が手がけた「ハヤカワ・SF・シリーズ」の魅力について。新書版のようなサイズで、厳密にはポケットブック判という早川書房オリジナルの判型です。
     
    川名:
    このSFシリーズの他にポケミスとよばれるシリーズがあって、そのふたつのシリーズはこの大きさですね。ちょっと縦に長い。
     
    松村:
    川名さんは早川書房のお仕事をされていますか?
     
    川名:
    今現在のハヤカワ・SF・シリーズの担当は僕です。なので、後輩にあたります。
     
    松村:
    そうだったんですね。判型は変わっていますか?
     
    川名:
    いえ、判型は変わってません。デザインフォーマットも変わってないですね。下部を黒くして“ A HAYAKAWA SCIENCE FICTION SERIES ”とし、真鍋さんのときからある形です。多分真鍋さんは、創刊の5冊目位から担当していて、その前からこの形ですね。
     
    松村:
    1冊目から、黒帯に”A HAYAKAWA SCIENCE FICTION SERIES ”というシリーズ名が記されている。
     
    川名:
    ずっと変わってないフォーマットですね。
     
    松村:
    素晴らしいですよね。背表紙はファンの間では、銀背(ぎんぜ)と呼ばれています。銀はニセ銀ではないですよね。
     
    川名:
    特色の銀をわざわざこのために差しています。創刊1冊目からですかね。
     
    松村:
    こうした事実を知ると、背表紙を眺めるのも楽しくなります。どういった形態だったのかをもう少し説明すると、ブラッドベリの『火星年代記』は、函に入っていたようです。しかも、ちゃんと真鍋博が絵を描いていた。

     
    川名:
    結果として、本の表紙より函の方が真鍋さんらしさがある感じですよね。
     
    松村:
    はい。表紙は写真表現ですね。
     
    五味:
    写真技術は結構使っていたようです。川名さんおっしゃるように表紙より函のほうが皆さんが思っている真鍋博のイメージに近そうです。
     
    川名:
    はじめて函がある状態を見ました。古本屋でもめったに見ない。
     
    松村:
    函のエレメントは、真鍋博のデザインなんですかね。書名などの赤い部分。
     
    川名:
    分からないですね。イラストにわざわざ「真鍋博」とクレジットを入れているので、ひょっとしたら函のデザインは違う人なのかもしれない。

     

     
    【小松左京|ハヤカワ・SF・シリーズ|早川書房】

     
    松村:
    ここからは作家さん別にSFシリーズを振り返ります。まずは小松左京さんのSFシリーズで、1965~67年の3年間に4冊発行されています。
     
    川名:
    真鍋さんの出力として独自のカラーがありつつも、意外といろいろなタッチがあります。
     
    五味:
    『生きてる穴』『神への長い道』は原画が残っていて、確かポスターカラー等水彩で描いていて、色指定していません。ちょっと深い色になってますよね。
     
    川名:
    『生きている穴』は色指定じゃなくて、原画からこういう状態だったわけですね。真鍋博特有の色指定による色面構成という技法に入る前の時代の作品になるわけですね。
     
     


    【星新一|ハヤカワ・SF・シリーズ・早川書房】

     
    松村:
    そして星新一の三冊です。1964~68年の3作品。ここから皆さんのお気に入りの本が登場します。まず、『午後の恐竜』について、真先生の推しポイントを教えていただけますでしょうか。
     
    真:
    僕は恐竜等を研究しているので、その繋がりです。正直いうと、父がこういう仕事をしていると周りの人から「星新一さんの小説が好きなのでお父さんの絵よく見てます」とか言ってくださるんですけど、子ども心にすごく抵抗がありました。僕自身は素直にそれを喜べず。周りの子たちは皆読んでいたんですが、僕自身は読んでなくて。『午後の恐竜』のことも大人になってから知りました。当然、読んでみると思い切り引き込まれていって『午後の恐竜』がすごく好きになりました。デザイン自体がかなりデフォルメされているので恐竜が恐竜らしく描かれていませんが、私がもう恐竜の勉強をしていた頃で、「こういう恐竜はいないので、間違っているから恥ずかしい事しないでくれ」と父に言ったんですね。父は「リアルな恐竜を描くんだったらサイエンスイラストレーターに頼めばいいのであって、リアルな恐竜を描くことは自分の仕事じゃない。リアルな恐竜を描く場ではないんだ」と言いました。その時僕は、すぐに納得できませんでしたが、星さんの作品に登場する恐竜は、必ずしもリアルな恐竜のほうがいいわけではないじゃないですか。暫く経ってから父の言葉を理解した、という個人的な紆余曲折の歴史がありました。星さんの作品を大人になってから読ませてもらったんですが、子どものときにもっと読んでおけばよかったと後悔しています。
     
    川名:
    真鍋家ならではの親子喧嘩ですよね(笑)
     
    松村:
    星新一作品についてはこの後も新潮社や中央公論新社など、いろんな版元で一緒にお仕事をされています。
     
    川名:
    星さんの指名だったんですよね。
     
    真:
    はい。

     
    松村:
    『真鍋博 本の本』に掲載した、SFシリーズをざっとならべてみたんですけど、やっぱり、ハヤカワ・SF・シリーズの黒帯があると、ファミリー感があって良いなと改めて感じました。
     
    川名:
    そう。だから、新しく担当する時にこれを外したらいろんなところから怒られると思って。
     
    松村:
    アイデンティティですよね。早川書房ではシリーズの終了や再開を繰り返されているような状況でしょうか。
     
    川名:
    そうですね。第1期、第2期というのがあって、今は新☆ハヤカワ・SF・シリーズ第5期にあたるのかな。
     
    五味:
    川名さんにお聞きしたいのですが、縦横比が普通の文庫本や単行本と違うじゃないですか。作りやすさや、作りにくさがあったりするんですか?
     
    川名:
    ちょっとだけ使う脳みそがかわります。単純に、タイトルが置きやすいというのはあります。絵の中に余白を作りやすいというか。真鍋さんはご自身で絵を描いて文字を置くという形だったから多分、あらかじめタイトルのスペースを考えて描くということが比較的簡単にできる気がしますよね。僕がやる分には、イラストレーションはイラストレーターの方にお願いしているので、描いてくださる方には「ちょっと変わったサイズです。」と伝えて描いてもらいます。案外やりやすい形です。
     
    松村:
    ビニールカバーも継承されているのですか?
     
    川名:
    そうです。函の時代、ビニールの時代があって。で、さらに小口を茶色く塗り始めます。多分真鍋さんがやっていた頃は、小口には印刷していません。微妙にリニューアルしているんだけど、黒い帯だけは頑なに変えていない。あと銀背。
     

     
    【星新一作品の真鍋博装幀の魅力】

    松村:
    星新一作品について、3つの版元に分かれていたものを時系列で並べて組んでみました。こうすることで真鍋博の作風の変遷みたいなものが読みとれるかもしれません。


    川名:
    多分『妄想銀行』は、色指定の可能性高いですね。『おせっかいな神々』も。
     
    松村:
    調子がある表現は、色指定ではなさそうです。
     
    五味:
    『ようこそ地球さん』は、原画がありましたよね。
     
    真:
    『ボンボンと悪夢』『ようこそ地球さん』『ボッコちゃん』は吹き付けとかも使ってるみたいです。
     
    川名:
    エアブラシですね。じゃあ、このあたりは指定ではないですね。
     
    五味:
    真鍋はアニメーションでもエアブラシを使っていました。いろんな技法を使っているのでしょう。
     
    松村:
    たとえば『ボンボンと悪夢』は1962年版と71年版でけっこう装幀のテイストが変わっていて、同じタイトルを時代ごとに見ていくと面白い。


    川名:
    『悪魔のいる天国』はとてもわかりやすい。1961年の中央公論社版の時よりも、皆が手に取りやすい形にしたい思惑が見てとれます。
     
    松村:
    中央公論社版は、シリアスな装幀でしたが、1967年早川版でいきなりカラフルになる。
     
    川名:
    時代の流行もあるとは思いますけどね。
     
    真:
    星さんが黒い表紙がお好きじゃないということで、あまり細かい指定はしなかったらしいんですけど、黒色に関しては、使わないでほしいとおっしゃったそうです。
     
    松村:
    確かにその後、白ベースの本が増えていくんですけども1969年の『ひとにぎりの未来』は結構黒っぽい。
     
    川名:
    気になりますね。大丈夫だったのかなあ(笑)
     
    松村:
    これは同意のうえでチャレンジされたんですかね。でもこれっきりですかね。


    川名:
    基本白ベースで、ひとつだけ77年『夢魔の標的』で黒いのがありますけどコンスタントに試していたのかな。
     
    松村:
    これはスコープを表現されているんですかね。
     
    川名:
    そうですね。必然性のある黒なんですよね。標的然とさせるための、黒い周りのスペースなので。
     
    松村:
    『ボッコちゃん』は今もこの装幀で流通されていて、その他にもいくつか現行品もありますのでぜひファンの方は新刊でも探してみてください。
     
    五味:
    やっぱり真鍋博はこの作風、ここから入った方が多いと思います。真鍋博にとっても、星新一作品というのは重要だったと思います。
     
    川名:
    一人の作家のバリエーションを何度も変えていくのは結構大変なはずです。真鍋さんは原稿を読んでから装幀していると聞いたことがあるので、一回読んだものを毎回別の格好で出力していくのは大変だったんだろうな、なかなかできないだろうなと思います。僕だったら嫌です、という作業ですね。
     
    松村:
    デザイナーでもありイラストレーターでもあるというのが、強さでもあり、難しさでもあったんじゃないかと思います。イラストレーションを外注する立場ならイラストレーターを変えることもできるのですが、すべて自分で描いていくのがやはり凄いです。
     
     
    中編>に続く

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