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    真鍋博 本の本 公開座談会 <中編>

    真鍋博 本の本 公開座談会 <中編>

     
    【筒井康隆等その他作品の真鍋博装幀の魅力】

     
    松村:
    ここからは筒井康隆作品や、その他のSF作品についても触れたいと思います。まず、筒井康隆先生ですね。
    中央公論社1976年の3冊のお仕事ですが、『アルファルファ作戦』は川名さんのお気に入りでしょうか?

     
    川名:
    はい。真鍋さんの装幀として、僕がまず思い出すのはこれです。実際に買ったっていうのもあるし、僕、真似をしているんですよね。
     
    松村:
    あれ。そんな告白があっていいんですか(笑)
     
    川名:
    奥泉光さん『ビビビ・ビ・バップ』は旭ハジメさんという方に絵をかいてもらっているんですけど、打ち合わせの時に、さっきの『アルファルファ作戦』を2人で見ながらこうしようという話をしました。
     
    松村:
    横向きの人物が中心にいるという構図ですね。
     
    川名:
    ものすごいキャッチーなので僕は好きなんですよね。
     
    松村:
    『ベトナム観光公社』や『東海道戦争』も中央公論社版になったんですけど、こちらについてどうですか。
     
    川名:
    このあたりのテイストが一番わかりやすい真鍋さん作品でしょうか。細い線のちょっと直線的な構成で、色使いはサイケデリックなんだけど数学的というか、サイケデリック文化とはまた違うところに落ち着いている感じがしますね。もう少しとっつきやすい。
     
    松村:
    整理された印象がありますね。
     
    川名:
    そうですね。コラージュ的でありながらも、コラージュひとつひとつにきちんと狙いがある。サイケにあるようなちょっと混乱させる感じが無いと思いましたね。
     
    松村:
    一連の星新一作品のテイストとも違った魅力がありますよね。
     
    川名:
    多分、真鍋さんの中で、「中央公論社で出る筒井さん」という一個の公式があるんだと思います。公式にあてはめて、内容ももちろん加味して最終的に形にしている感じが見えます。

     

     
    【創元推理文庫『レンズマン・シリーズ』東京創元社】

     

    松村:
    今度は『レンズマン』です。先ほど「公式」というお話もありましたが……。
     
    川名:
    これにもやはり公式が見えますね。
     
    松村:
    7冊目の『渦動破壊者』だけ1977年刊と間があいて出版されています。
     
    川名:
    10年前の自分のルールでやっていますね。
     
    松村:
    3冊目にグラデーションの表現が入っていたりもするんですが、6冊目『三惑星連合軍』のテクスチャーは写真的な技術も使われています。
     
    川名:
    公式では誤差の範囲という感じはありますね。
     
    麗子:
    後ろの赤い部分は、ガラスの写真を使っています。
     
    松村:
    案外身近なモチーフをこの宇宙空間にもってこられたのですね。 
     
    麗子:
    ガラスの写真をたくさん撮っていました。
     
    松村:
    そういうことがわかってくると、さらに愛しく思えてきます。
     
    川名:
    すごい身近なところで作業してて、シンパシーを感じます。
     
    五味:
    「ミステリーマガジン」でも五味太郎さんが撮影した写真を使って、その上に描く等、されていましたからね。いろいろ試されていたのでしょう。
     

     
    【ミステリージャンルの真鍋博装幀の魅力】

    松村:
    ミステリージャンルに移りますが、2023年のトピックとして、クリスティーの「名探偵ポワロ」のドラマシリーズがNHKのBSで放送されています。ぜひチェックしてみてください。
     
    真:
    うちの母がしっかり観ているそうです。
     
    松村:
    麗子さんと一緒に観ていると思うと、また特別な感じがします。この孔雀はクリスティーの『第三の女』のカバーを切り抜かせてもらっています。クリスティーの表紙は今回大フィーチャーしていて、観音開きの状態で全冊を一覧できるようレイアウトしました。


    川名:
    代表作中の代表作ですよね。
     
    松村:
    真鍋家ではクリスティーに関してエピソードはありますか。
     
    真:
    本人も全作品携わったということですごく思い入れがあって、カバーを集めたものを小冊子にして自分用に作っていました。関係者の皆さんに配ったり、差し上げたり。
     
    麗子:
    本人もすごく集中して取り組んだシリーズです。


    五味:
    私家版をまとめたものが高額になっていますよね、今。全然手に入らないですもんね。
     
    松村:
    『そしてだれもいなくなった』の1冊目の装幀の絵柄を使いつつ、タイトルが『アガサ・クリスティーのカバー』となっています。入手困難で、『真鍋博 本の本』に掲載したものも真先生からお預かりし撮影させてもらった経緯があります。どこをどうかじっても、ずっと拝見していたい位素敵な作品群です。
     
    川名:
    多分トーンが一緒に見えるのは色指定のせいで、やり方としてはいろいろですよね。一番わかりやすいのは『ビッグ4』。イラストレーターというより、デザイナーの頭で作っている。


    松村:
    時々こういうタイポグラフィ表現を用いる真鍋博が登場するのもクリスティシリーズの面白さのひとつですね。もうひとつ象徴的なのが、『NかM』です。NとMをフレームにして、その中にシルエットのモチーフを配置している。
     
    川名:
    発想としてはストレートですが、文字の中に何を盛り込んでいるかでかなり真鍋さん色がありますよね。


    松村:
    東京創元社の『ポオ全集』と『ポオ小説全集』というシリーズに川名さんお気に入りをいただきました。
     
    川名:
    大学生の時に、「うわかっこいい!」と思って買いました。そのあと生活苦で売っちゃったんですけど、今回このイベントのために買いなおしました。
     
    松村:
    ありがとうございます!
     
    川名:
    『ポオ全集』は、「POE」3文字のアルファベットで文字だけで構成してる潔さがすごくて選びました。このタイポグラフィの作り方に真鍋さんの持ち味がありつつ、きちんとエドガー・アラン・ポオという作家の持っているカラーを色濃くだしている。すごくね。こんなに器用なもの見せられたら、後世の僕たちはなんも仕事ないな〜という感じです。
     
    松村:
    そこまでですか……。
     
    川名:
    函から出すと見返しに松明のイラストが唯一イラストレーションの仕事としてこの本の中では登場するんですよ。
     
    松村:
    そうですよね。他に1巻の口絵にはハリー・クラークが掲載されています。
     
    川名:
    いろんな銅版画家の作品が載っている形なんだけど、外装と見返しだけ真鍋さんのデザイン。とにかく外函がかっこいいですよね。『ポオ全集』はかなり古本屋で見つかるのでおすすめです。
     
    松村:
    あと、創元推理文庫『ポオ小説全集』にもなっています。こちらにはフレームがあしらわれ小ぶりでかわいらしい装幀です。
     
    五味:
    この特色の銀がすごい映えていて、自分はこの文庫版もすごい好きですね。東京創元社の戸川安宣さんも思い入れがある1冊とおっしゃっていました。
     

     


     
    【真鍋博キャラクターの個性】

    松村:
    今回、榎本俊二先生に「MANABEと私」という漫画をご寄稿いただきました。その中の一コマに、真鍋博を説明するにあたり「無表情なキャラクター」についてピックアップされていたのがずっと忘れられずにいました。このコマを流用させていただくにあたり真鍋博キャラクターについて、榎本先生からコメントをいただきました。 

    「真鍋博の描くキャラクターの、たまらない、ぞっとする感触は
    マザーグースやイソップ童話にも通じるウルトラシュールな残酷さだと思います。
    人の死や世界の崩壊がとてもライトでドライに描かれています。
    それまで見てきた漫画作品のどれとも全く違う、
    日本人の手から引かれた線とは到底思えない、
    感情や体温が感じられない
    まさに未来国からのイメージとしかいいようがありません。」


    これは榎本先生が感じた真鍋博が描くキャラクターについてのご感想ですが、それぞれ皆さん、違う思いがあったりするのかと思いつつ、これまでの読書歴とリンクしそうな話かなと思います。
     
    川名:
    確かに、かなり残酷なシーンが描かれているものが多いですよね。


    松村:
    本書に掲載した装幀に描かれていたキャラクターを1960年代中心にピックアップしてみました。61年の段階ではこうしたタッチだった人物がどんどん変わり、63年ですね、ここで急に記号的になっていて、その後は一貫したいかにも「真鍋博キャラクター」という表現をされています。
     
    川名:
    61年のだけみると、多分わかんないですよね。真鍋さんの線にはもうちょっと無機的なイメージがあるので。この曲線の描き方はすごく、この時代のどの人がかいてもありえそうなカートゥーン調というか。そこから無機的な質感にじわじわシフトしていく印象があります。
     
    五味:
    前の展覧会の時に、真鍋博のアシスタントされていた林明子さんのインタビューもしました。林さん自身も真鍋博の仕事が、そのくらいのタイミングから少しずつ記号化が進んでいったとおっしゃっていました。おそらく川名さんの指摘のように、無機質な人間像というか、意味をもたないものを描いていこうとしてたのかと思います。真鍋博がなにかの質問に答える中で、「真鍋博のイラストに、人物があまり描かれないのはなぜか」と聞かれた時に、「たとえば飛行機とか動物とかに人間性を求めているのだ」と答えています。それはもっとあとの1970〜80年の時代です。だから人間がどんどん無機質になっていって、最終的に真鍋博のSF的な要素に繋がったのかと考えていますが、なかなか結論は出ません。
     
    川名:
    その無機質さがジャンルとの相性がとてもいいんですよね、SFにしろミステリーにしろ簡単に人が死んだり、世界が滅んだりするじゃないですか。物語の中でこの無機質でドライな感じがちょうどうまくはまる感じはありますよね。
     
    松村:
    なるほど。榎本先生がおっしゃっていたことと皆さんほぼ同意見ということですかね。女性キャラクターも並べてみました。


    川名:
    76年『おのぞみの結末』は意外な感じがしますよね。真鍋さんのなかで、『いたずらのすすめ』とか『エース』に描かれているこの髪型はよく見る感じがします。
     
    松村:
    確かに。真鍋家からは、人物描写についてコメントはありますか?
     
    麗子:
    人物は苦手でした。
     
    松村:
    読者は皆このスタイルが大好きだと思うんです。
     
    川名:
    ただでさえロボットっぽく描くのに、この『東海道戦争』とかもうロボットですからね(笑)
     
    真:
    「大口を開いているのがよろしくない」というコメントをいただいたことがあるそうです。
     
    川名:
    行儀が悪いという話ですか?


    松村:
    全員開いていますね(笑)
     
    川名:
    出版社なり編集者からあんまり聞かないダメ出しのセリフですね。「口、開けすぎ!」って。
     
    松村:
    シリアスな内容だと、ちょっと楽し気にみえてしまうのでしょうか。
     
    川名:
    そこが持ち味な気がしますけどね。悲劇でもこの口があれば、手に取りやすいパッケージになる。これだけ開いているのに、感情が見えづらい。


    松村:
    後ろのモブの4人は記号的でいいはずなのに、口が開いているところに意思を感じる。
     
    川名:
    モブの主張が強い。
     
    松村:
    ちょっと新しい視点が得られましたね。
     
    川名:
    口を開いてない人達は、真鍋博っぽくないですもんね。
     
    松村:
    いや、面白い。麗子さん、ありがとうございます。
     
     
    <後編>に続く

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