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    さとゆめ 嶋田俊平さんインタビュー 後編

    さとゆめ 嶋田俊平さんインタビュー 後編

    ©︎Daisuke Takashige

     

    世界観やコンセプトを大切に

     

    ―Satologueの施設やパンフレットのブランディング、デザイン的なことで心がけていることはありますか。サウナ棟があるのが今っぽくて若者に反応してもらえそうな設計だなと思いましたが他にもあれば教えてください。

    コンセプトとか自分たちの提供価値がなにかについて、永遠に議論する。それを誰に提供するのかとか。あとはクリエイティブディレクターさんが最初の段階から入ってしっかり共通認識を持ってもらって、SNSやウェブサイト、パンフレットも全部その一人のクリエイティブディレクターさんの監修の元やっていく。あとは、地域の話になっちゃうんですけど、地域というか田舎ですかね、田舎ってデザイナーさんはめちゃくちゃいるんですよね。最近自治体のウェブサイトとか、パンフレットとか、どんどんおしゃれになっていってるんですけど、ツールごとに入札やコンペで発注していくんですね。で、全部違うデザイナーが全部違う考え方で、全部違うイメージで作っていって、外から見ると「結局この村はどんな顔をしてるの?」とか、「どんなコンセプトなの?」っていうのが全然わからない、全部ちぐはぐなのが問題だと思っていて、なので地域にはクリエイティブディレクターとかアートディレクターが一番足りないと思っています。個別のデザインの上にある世界観とかコンセプトとか、そこをすごく大切にしているのが僕らの特徴じゃないですかね。

    「沿線まるごとホテル」パンフレット「旅のしおり」(実証実験時に使用)

    「沿線まるごとホテル」パンフレット「旅のしおり」(実証実験時に使用)

    奥多摩の魅力を伝えるPR 誌

     

    ―クリエイティブディレクターさんにデザインを発注する時に気をつけていることはありますか?

    最初の議論からずっと一緒にやっているので、ほとんど社員と変わらない形です。みんなでどこか視察に行こうってなったら一緒に行くし、みんなでベンチマークになりそうなレストランに行こうってなっても一緒ですね。同じ体験、同じ時間を過ごすことで、ちゃんと事業者側の想いやこだわりが伝わるのではないかと思っています。

     

    ―Satolugueさんは、ビオトープやワサビ田のような地域にあるものを楽しめる施設が特徴的です。どのような経緯で作ることになったのでしょうか。

    奥多摩の自然が凝縮されたビオトープ ©︎Daisuke Takashige

     

    デザイナーの巽奈緒子さんやスタッフが楽しくどんどんアイデアを出しています。奥多摩を好きになって帰ってもらうためにはどうしたらいいのか、もちろん外に出てたくさん体験してもらいたいんですけど、ホテルの敷地内で奥多摩の暮らしや文化、自然を感じてもらうためにはどうしたらいいのかとか。あとはさっきの、もやもやをワクワクにひっくり返すみたいなところは、私が教えているわけではないんですけど自然とみんなそういう発想になっていって、たとえばSatologueがある場所、コンクリートの構造物じゃないですか、あれ元々養魚場だったんですよ。

    わさび田 ©︎Daisuke Takashige

     

    あれも最初すごくみんな頭を悩ましていたというか、「いやこれ、邪魔だな〜」みたいな。川だけ見えたらいいのに目の前にコンクリートの人工物あるし、壊して撤去して土に埋めて植栽した方がいいよねとか、でもコストがかかって撤去が難しいってなったときに、巽さんのお知り合いの造園をやっている方が「ここ、奥多摩の自然のミニチュア版みたいにしたら面白いんじゃない?」と。「川とか流しちゃってさ、わさび田とか作ったらいいんじゃない?」って(笑)。そしたら本当にわさび田ができちゃって。サウナ小屋も、僕らは「古民家ホテル」っていう頭で来てるから、建物がコンクリートでちょっと難しいなと思っていたんですけど、建築家の堀部安嗣さんが「これは絶対サウナだよ!」って言ってくれて。空き家とか養魚場の跡地とか、ネガティブなものを新しいものにできないかということをみんな考えています。

    「Satologue」 サウナ棟 ©︎Daisuke Takashige

    「風木水(FUKISUI)」サウナ内部  ©︎Daisuke Takashige

     

     

    ―元々ある素材を見て、これはサウナがいいという発想は建築家の方じゃないとなかなか思いつかないですもんね。

    設計の話でいうと、堀部さんに頼めたのは本当にありがたいなと。自分が一番惹かれたのは、堀部さんの思想というか、考え方。堀部さんはあんまり商業施設は手がけられていない方なんですね。どちらかというと住宅をずっと造ってこられた方で、名作をたくさん残されているんですよ。堀部さんの本を読むと、住宅というものは建築の原点で、住宅の原点は巣と言われているんですよ。巣というのは帰る場所だと。でも、家以外の場所は帰るとは言わないんですよね。「病院に行く」とか「図書館に行く」とか。「行く」って言うんです。でも、家だけは「帰る」。帰りたくなる家というものを、自分はずっと追求してきたんだと。では、帰りたくなる家とはどのようなものかというと、「居心地が良い」。居心地の良さを分解すると、あたたかい、やわらかい、澱み(よどみ)がない、みたいな、そういう「帰りたくなる家」や「居心地の良さ」を言語化されているんですね。そういうふうに言語化してくれない人と仕事をすると、突然「ほら、どうだ、いいだろ」って、向こうは先生だから「いいですね〜」ってなっちゃうじゃないですか。でも言語化してくれているから、「ここは柔らかさを意識しているんですか」とか、「ここは澱みがない感じですか」とか、そういうふうに対話ができるので、この人とだったらやりやすいなって。頼む時に思ったのは、うちのホテルに「帰りたくなる家」みたいな客室を造ったらいいと。そうすると、リピートしてくれると。客室が家だから、帰りたくなる。さらにいうと、帰りたくなる家が沿線にいっぱいあると、「帰りたくなる地域」になっていく。そうなると、リピーターが増えるし、関係人口も増えるし、移住してくれる人も出てきて、地域がどんどんにぎやかになっていく。そんなことを勝手に考えて、「お願いします!」って。本当にぴったりな方。客室が開業したらぜひもう一回取材してほしいです(笑)。

     

     

    地方創生について

     

    ―本当に楽しみです。嶋田さんは、どのようなきっかけで地域創生という職業に就かれたのでしょうか。

    ひとつ挙げるとすると、私は生まれは大阪なんですけど父が転勤族で、海外も含めて2、3年でいろいろな場所を転々としていました。大阪や千葉や、インドとかタイも10年くらい。その中で「ふるさとがない」というコンプレックスをずっと持っていたんです。自分のいとこは自分の街でずっと育っていて、小中高みんな幼馴染とか、まあないものねだりなんですけど(笑)。自分はいきなりバンコクとかよくわからないところに突然行くことになったりして、そんな中で日本の風景ってすごく美しいなって、ふるさとが欲しいっていうのはずっと思ってたんですよ。大学は京都の方に行って、ふるさとと呼べるような地域が見つかったりして。大学時代に自分が6年通っていた雲ヶ畑っていう村があって、農学部で森林をずっと勉強していて、そこで森づくりを教えてもらったりしていたんですけど、その時にここがふるさとだと思えたんですよね。そこで「ふるさとっていうのは作れる」って実感したんです。で、この街をふるさとだと思えた瞬間に、ふるさとのために力になりたいと思ったんですよね。雲ヶ畑のためになんかできないかって思って、仲間を集めて山仕事を手伝うようなサークルを作ったり、雲ヶ畑を盛り上げる「森の文化祭」っていうイベントを始めたり、そのサークルやイベントって今も続いてるんですよね。25年間。その村も過疎で、どんどん衰退していく中で、産廃置き場ができたりした時に、「ふるさとを守れなかった」という自分の非力さを感じました。それで、ふるさとを守れる人間になりたいって思った。誰かのふるさとを作るとか、誰かのふるさとを守る、そういう仕事をしたいと思ったのが、この仕事を始めたきっかけですね。

     

    ―観光や宿泊業、地域活性化事業を目指す若い読者やデザイナーの方へのメッセージをお願いします。

    よく言ってることは、ビジネスっぽくなっちゃうんですけど、日本ってかつて半導体とか車とか製造業とかITとか、世界に誇るいろんな産業がありましたよね。強い産業。でもそういうのがどんどん今低迷してきているというか、そういう中で、日本が世界に誇れる産業で、世界中から人を呼び寄せられる成長産業ってもうあまり残ってないんですけど、観光業や宿泊業はまさにそれだなと。日本に残された数少ない成長産業。特にインバウンド、今2500万人くらい来ているんですね。でもコロナ前は4000万人くらい来ていたんですよ。政府の目標は2030年に6000万人、今の倍増えるんですよ。もうすでに外国人多いじゃないですか。その倍増えるし、たぶん達成できると思います。この3、4年で倍に増える産業ってないですよね、あんまり。でもそれくらいポテンシャルがあるし、僕はタイとかインドとかいろんなところに行きましたけど、日本は素晴らしいですよ。本当に。自然や何千年という歴史、文化、丁寧な暮らしをしている方々の日常とかも観光資源ですし、あとは日本人の優しさとか、思いやりとか、礼儀正しさとか、そういう人間性も世界の方々からすると癒しになるし、感動になります。かつ、ここにきて京都や奈良みたいな有名観光地だけじゃなくて、日本の昔ながらの暮らしとかどこにでもあるような自然とか、街並みとか、そういうものに世界の方々が注目されている。なので、ありのままでいいって。丁寧な暮らしをする、昔ながらのものをしっかり大切に残していく、それだけでビジネスになる。こんなこと言っちゃあれなんですけど。でっかい工場とか作らなくていいんですよ。こんなすごいできた産業ほかにないと思いますよ。なので、ぜひ誇りを持ってこの業界に飛び込んでもらいたいですね。

     

    (取材協力:株式会社さとゆめ)

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