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    『タイポグラフィ60の視点と思考』刊行記念インタビュー集 第1回:井上悠さん(前編)

    『タイポグラフィ60の視点と思考』刊行記念インタビュー集 第1回:井上悠さん(前編)

    株式会社canariaにてデザイナーとして活躍後、現在はフリーランスとして活躍中の井上 悠さんにご登場いただき、これまで手がけた仕事やデザインに対する考え方、また『タイポグラフィ60の視点と思考』で紹介した作品ついて語ってもらいました。今回はその前編です。(取材日:2024年10月15日)

     

    「30歳で独立」を有言実行

     
    ___はじめに、お仕事の内容やスタイルを教えてください。
     
    以前はcanariaというデザイン会社に勤めていました。2022年に独立し、現在はフリーランスでデザイナーをしています。媒体問わずに仕事をしていますが、平面のグラフィックを作り、それが色々なところに展開されていく仕事が多いです。
     
    ___独立された当初、苦労したことはありますか?
     
    クライアントがいたわけでもなく、次のあてもなく辞めた形だったので、最初は先が見えない状態でした。でも、独立してすぐに前の会社でご一緒していたコピーライターさんや、映像制作会社さんから声をかけていただきました。前の会社の繋がりが今も続いている感じです。

     

    ___2022年はまだコロナ禍でしたよね?
     
    コロナ禍が少し落ち着いてきた頃だったと思います。もともと学生時代から「30歳で独立しよう」と決めていて、ちょうど30歳で独立しました。
     
    ___有言実行ですね。独立されてから仕事のスタイルは変わってきましたか?
     
    前の会社で身についたものが多く、やり方自体は基本的に変わっていません。「絶対このやり方をしたい」というより、情報を集めてどれが大事なのかを整理して作業を進めていくやり方は今も同じだと思います。

     

    「中梅織物」の職人から学んだこと

     
    ___最近手がけられたお仕事を教えてください。
     
    2つありまして、1つは京都にある「中梅織物」というクライアントさんで、西陣織のワッペンやネームなどのプロダクトを生産している会社です。そこで新しい商品を開発することになり、プロダクトとポスターのグラフィックデザインを担当しました。西陣織で織られたコースターを撮影してポスターにしたのですが、写真に映り込む細部の織りがすごかったです。

     

    ___洒落ていますね。舞妓さんなどのモチーフがかわいくて海外の人にも受けそうです。いつリリースされるんですか?
     
    2024年末くらいには出ると思います。もちろん海外の人にアピールすることも意識して作っています。
     
    ___ブランドのコンセプトを教えてください。
     
    このブランドは、「日本の伝統技術を使って新しいものを生み出す」がコンセプトです。今回、新しいコンセプトがあると制作しやすいと思い、「MINIMUM WORLD」をテーマにしました。ミニマムな要素で京都を表現する、というイメージです。舞妓さんやキツネなど京都らしいモチーフをシンプルな図形だけでデザインしようと考えました。
     
    ___ポスターはどのようなプロセスで出来上がったのですか?
     
    プロダクトが出来上がった後、クライアントとのやり取りの中で「ポスターを作りたい」という話があがりました。せっかくなら技術力の高さや織りの細かさなどの美しさをポスターで伝えたいと思いました。協力いただいた職人さんたちに感謝しかありません。

     ___機械で織っているのですか?
     
    そうです。元々の図案はこちらでデザインしていますが、職人さんが綺麗に図案が織れるよう、技術的な調節をしてくださっています。

    ___西陣織の現場にも行かれたのでしょうか?
     
    京都という場所の都合で現場には立ち会っていませんでしたが、西陣織サンプルを送ってもらうなどやり取りをしていました。職人さんたちは機械の扱い方や、綺麗な織り方を熟知しているので、糸の組み合わせや織りの入れ方にとても詳しいです。糸の色を変えるだけで印象が違ったり、斜めに織りが入ったり、そういったところは職人さんじゃないとわからないので、いくつか織っていただいて、「これにしたい」と決める進め方をさせてもらいました。

    ___職人の手仕事を見て勉強になったことはありますか?
     
    糸の組み合わせや発色がとても勉強になりました。デザインの提案は平面で全部やっていたのですが、そこからどういう糸が合うとかは職人さんにお任せしました。選別する技術力や織り方の技術は知見があってこそです。自分が思い描いていた以上にクオリティを向上させてくれる仕上がりで、とても刺激的でした。
     
    ___「MINIMUM WORLD」というテーマや舞妓さんやキツネのモチーフは、井上さんが提案したのでしょうか?
     
    何を表現するかは自由だったので、思い浮かんだ京都のモチーフから絞り込み、テーマに合わせた最小限の図形を使ってデザインしました。

     

     

    ファッションセレクトショップのグラフィック

     
    もうひとつは、「グリーンパークス」というファッションセレクトショップのセールのグラフィックです。以前、夏のセールの作品は「タイポグラフィ60の視点と思考」で紹介されていて、今回は秋の作品になります。
     
    ___ムービーのモーションもご自身で考えたのですか? フォントはパッチワークのようですね。
     
    これはプロモーションムービーで、モーションは別の人が手がけています。キーフレームを僕の方で作成し、こういう流れでやりたいというのをモーション担当者に伝えて制作してもらいます。モーションをお願いしているのは、同じシェアオフィスのメンバーなので、スムーズなやり取りで進行できました。文字は秋のセールということで、だんだん色づいていく感じをイメージして自分でフォントを作りました。

     

    ___クライアントから事前に何か希望はありましたか?
     
    先方から頂いた資料にやりたいことや割引の%の数字、セールの情報を目立たせたいなどの最低限の希望が記載されていて、それ以外は自由にやらせてもらいました。今回はセールのグラフィックだったので、価格を目立たせたり、色々なアイデアを考えて良さそうなものを2案に絞って提案しました。
      
    ___2案件ともエレメントやタイポグラフィなど、お一人でビジュアル制作が完結するお仕事ですが、そのやり方が得意なのでしょうか?
     
    強みはあると思います。そういった仕事を求められることが増えており、デザイン周りを1人で完結する仕事が多いです。
     

     

    「米沢牛黄木」のブランディング

    ___これまでで、特に印象に残っているお仕事を教えてください。
     
    山形県の米沢牛を扱っている「米沢牛黄木」という会社の案件が一番印象に残っています。米沢牛の肥育、食肉販売、レストラン運営、法人営業などを展開する会社で、創業100周年を迎える少し前からブランディングで関わらせていただいています。
     
    ___Webサイトやカタログに使われている、牛がぶら下がった写真はインパクトがありますね。
     
    米沢牛のせりの様子です。保管庫に一頭分の牛肉がぶら下げられていて、業者さんたちが集まってせりを行います。仕事じゃなきゃ入れない場所なので特に印象に残っています。キービジュアル開発、Webサイトやカタログ制作以外にも、ポスターやパッケージ、CMなどのデザインも継続的に行なっています。
     
    ___コピーも井上さんが考えられたのですか?
     
    コピー自体は元々あったものです。2023年にブランドが100周年を迎えるにあたってブランドコピーが一新されたタイミングでブランディングに参加しました。それからは、「このコピーを表現するにはどういうビジュアルが良いか?」というところでずっと一緒に考えさせて頂いています。

     

    ___店内ポスターの牛のイラストは、どのようにして完成したのでしょうか?
     
    写真があるだけだと他社との差別化ができないと思い、イラストメインで作りました。「牛を取り扱う会社ということをシンプルに伝えられたらいいのではないでしょうか?」と提案して、採用してもらいました。創業100年の歴史のある会社なので、軽い印象にならないよう意識しました。

     

    ___反響はいかがでしたか?
     
    すごくいい反響でした。ちょうど2024年5月に行われた竹尾青山見本帖でのショーケース展示に出品したのですが、そこでも好評だったようです。
     
    ___ロゴは井上さんの作品ですか?
     
    ロゴ自体はだいぶ昔に作られたものです。クライアントも思い入れがあるロゴなので使い続けたいということで、ロゴの形は変えずに組み方を検証しました。100周年を迎えた新しいブランドコピーとの組み合わせを提案する中で、昔の意匠を残しつつ、今のコミュニケーションに適した形にこちらで調節しています。
     
    リニューアルのタイミングでブランドカラーを赤と金に変更することになりました。商品パッケージなども赤と金で統一しつつ、ギフトボックスやショッパーなども同様にデザインを展開しています。

    ___赤も素敵ですね。井上さんは東京都のご出身だと伺っていますが、こういう地方の仕事に携わることも多いのですか?
     
    フリーランスになってから地方の仕事に関わることが増えました。特に職人さんやものづくりに誇りを持っている人たちと関わるのはとても楽しいので、今後そういう仕事が増えていくといいなと思っています。
     
    ___井上さんのデザインのインスピレーションはどこから得ることが多いのでしょうか?
     
    インスピレーション自体は、ゼロから何かを思いつくというのはあまりなく、クライアントの価値や強みを調べて抜き出していく。それを伝えるにはどのようなアイコンやグラフィックで、どういう要素を使えば伝わりやすいのかを考えます。例えばこの「米沢牛黄木」なら、牛を採用することで牛肉専門店とすぐわかる。そういう伝えたい情報のアイコンをいくつかピックアップして、そこからどう表現できるかを考えていくことが多いですね。

     ___デザインに関する本を参考にすることはありますか?
     
    デザインの参考というよりも、「類似を避ける」とかトレンドを知るために見ることはありますが、アイデアのヒントを探すために見ることはないですね。アイデアはやっぱりクライアントにあると思います。仕事と関係のないところで本を見て、こういう表現はいいな、とか楽しむことはあります。むしろ、仕事とは関係ない範疇で本を見る方が多いかもしれません。
      

     

    地方の仕事やものづくりに関わる人との仕事がしたい

    ___今後チャレンジしてみたいお仕事や分野があれば教えてください。
     
    先ほど話していた地方の仕事や職人さんに関わる仕事が増えていくといいなと思っています。ものづくりや表現を仕事にしている人と一緒にできたら、こちらも刺激をもらえるし、成長に繋がると思っています。ほかには美術館の仕事でしょうか。最近、図らずもこのような仕事に携わることができてありがたいと実感しています。

    ___日本で特に興味がある地方はありますか?
     
    よく行くのは京都です。半年に一度くらいプライベートで行ってゆっくりしたり、京都の知り合いのところに行って仕事をしたりすることが多いです。和風のものや昔ながらの色が好きなので、デザインにも知らず知らずに反映されているのかなと思います。
     
    ___外国の方向けの仕事もありますか?
     
    直近で担当したのは、京都の和菓子屋のブランディングです。ロゴマークやパッケージのデザインに携わりました。
     
    ___インバウンドを意識してデザインする際に気をつけることはありますか?
     
    分かりやすさや日本らしさを意識することでしょうか。それと他社の商品をチェックして、デザインが被らないように注意して進めていくところです。

     

     

    デザインしているときがストレス解消に

    ___前編の最後になりますが、これからデザイナーを目指す、若い世代へメッセージをいただけますか?
     
    「デザイン」と聞くと「センスが必要」みたいなイメージがありますが、そこは気にせずひたすら作って、デザインと向き合ってもらえたらと思います。僕の場合、美大ではなく総合大学のデザイン学科で学んで、自分より上手い人は周りにいっぱいましたが、特に気にはせず作品を作り続けていました。時を経て、こうして誰かに作品に見てもらえるのは、デザインと長く向き合ってきたからだと思います。「センスがないから」とあきらめずに、デザインと向き合ってみてください。
     
    ___上手い人が沢山いる中で、めげずに続けられたことがすごいですね。どのようにモチベーションを維持したのでしょうか。辛いときはなかったですか?
     
    上手い人がいるから悔しいということはなくて、ただただ楽しく作っていたら今に至る、という感じです。辛いと感じたことはありません。デザインしているときがストレス解消になっているからかもしれません。

     

    ___デザインを続けてきてよかったと思うのはどんなときでしょう?
     
    デザインに関係のない人が、自分が関わったデザインを知っていたり、使ってくれていたり、そういったことを偶然知ったときに嬉しいなと思います。成果物が生活の中に根づいている、見てくれている人がいると思うとモチベーションにつながりますね。
     
    後編に続く)

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