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    『タイポグラフィ60の視点と思考』刊行記念インタビュー集 第3回:小玉文さん(後編)

    『タイポグラフィ60の視点と思考』刊行記念インタビュー集 第3回:小玉文さん(後編)

    現在は株式会社BULLETを代表する小玉文さん。後編では、『タイポグラフィ60の視点と思考』で紹介させていただいた「HERE」と「米の恵み」の作品について伺いました。

     

    黒川雅之氏のブランド「HERE」について

    ___はじめに作品のコンセプトを教えてください。
     
    HERE(ひあ)は、建築家・プロダクトデザイナーの黒川雅之さんが、ご自身の哲学を元に生み出した家具・テーブルウェア・ファブリックなどを通じて食空間のありかたを創造し、提唱するブランドです。ロゴを制作するにあたり、まず初めに黒川さんの哲学思想をお聞きしました。
    「我々は、いまここでどう生きるべきか」「シンプルであることと複雑さを内包していることは同義である」「相反するものが同時に存在する美しさ」
    黒川さんの思想を表現するためには、表面的な装飾や意匠は無意味であり、不要なものを極限まで削ぎ落とした佇まいが相応しいと考えて、このロゴを制作しました。

     

    ___ロゴ作成にあたり、気をつけたことはありますか?
     
    偏ったイメージにならないように、様々な事柄を内包する懐の広さとシンプルさを兼ね備えたものを目指しました。「HERE」の4文字の中に、平仮名の「ここ」が内包されている表現を思いついた時、黒川さんの思想を形に出来た!と感じました。

     

    ___ロゴはどのように展開したのでしょうか?
     
    HEREのロゴは欧文でもあり、和文でもあり、マークでもあります。食器やプロダクトの底などに配置する時は「ここ」の二文字を用います。文字でもありマークでもある、落款のような存在感です。もう少し文字として読ませたい場合には「HERE」の組みを、シンボリックなマークとして用いる場合には「=(二本線)」のみを使用します。場合に応じて使い方を変えて展開しています。

     

    ___パッケージデザインで工夫したことはありますか?
     
    パッケージの用紙には大和板紙の「TD原紙」を採用しました。表面加工などを施していない素の状態の紙です。折り加工を行うと角割れしやすく、あまりパッケージに向いているとはいえないのですが、ナチュラルな風合いに魅力を感じ、あえてこの紙を使うことにしました。この箱に黒川さんの食器を収めることで、自然物と人工物との魅力的な対比が生まれます。

     

     

    白鶴酒造「米の恵み」について

    「米の恵み」は、白鶴酒造の米由来成分のスキンケアシリーズです。長年にわたりお米と向き合って誕生した基礎化粧品のラインを出していきたいとご依頼いただきました。やさしい佇まいや飾らない自然な魅力を目指し、ゴシック体よりも明朝体が良いといった大枠からイメージを固めていきました。

     

    ___ロゴが出来上がるまでのプロセスを教えてください。「米」の点はお米なのでしょうか?
     
    「米」の漢字は稲穂の形からできた象形文字で、もともとは茎と6つの米粒の形をしていました。それが徐々に変形して今の漢字の「米」になります。それを踏まえて明朝体をベースに形を作り、少し象形文字に戻していく感覚で制作したロゴです。

     

    ___「恵」はどういうプロセスだったのでしょうか?
     
    基本的には「米」と同じように作りました。「心」の部分をなめらかな曲線にすることで、整ったイメージに仕上げています。化粧品を使うことで肌理が整っていく感覚で、ゴシック体よりは明朝、明朝体の中でもより滑らかにしていきたいと考えました。
     
    ___大枠のイメージから固めていくことが多いですか?それとも表現ありきで始まることもあるのでしょうか?
     
    ケースバイケースです。先ほどの「HERE」は考え方が決まった時点でほぼ完成した感覚でした。「米の恵み」はパッケージという完成形があったので、箱とボトルにロゴをデザインした時の佇まいも同時に検証していました。日常に存在した時に、主張しすぎず自然な形で空間に溶け込めかを大事に考えていきました。
     
    ___「米の」と「恵み」の間が空いています。何か理由があるのでしょうか?

     クライアントからは間が空いていない商品名を頂いたのですが、ボトルやパッケージの正面に配置した時に説明的な印象を受けました。少し間を開けることによって、佇まいが良くなると考えました。

     

    ___なるほど、できそうでできないことです。ずっと見ていると文字ではなく模様のように見える瞬間もあるような気がします。
     
    そう思っていただけるととても嬉しいです。ロゴは文字でもありますが、図像や絵でもあり、視覚情報としてスッと頭に入ってくる状態がロゴとしてベストな状態だと考えています。文字として読めるけれど、文字らしすぎてもよくない、そういうものではないかと思います。
     
    ___オリジナルのロゴを制作する際に苦労することはありますか?
     
    雰囲気や佇まいを作ることが難しいです。ロゴ単体では雰囲気が掴みづらいことも多々あるので、クライアントに提案する時は仮のパッケージや名刺にロゴを配置したものを見ていただくようにしています。具体的に落とし込んだ状態の方が、ロゴがもたらすイメージが分かりやすいと思います。

    ___「パッケージに配置された時の空気感」で具体的にどのようなことに気をつけていますか?
     
    最終的に「らしさ」が表現できているかどうかが大事だと考えています。パッケージは、消費者が最初に目にする「顔」であり「入り口」です。瞬間的に「この商品はありか、なしか」をジャッジするための要素がパッケージならば、「らしさ」さえ表現できていれば、その商品を求める人に手に取ってもらえることになります。

    ___最近はWebで知ってオンライン購入することが多いと思います。実際の商品に手を触れずに、写真だけで伝える場面で工夫されている点はありますか?
     
    世界観を作り込めるので、写真での表現はとても大切です。「米の恵み」では背景にベージュ系の紙を用い、陶芸作家の作品を並べて撮影しました。商品単体で見てもらうよりも、商品の持つイメージを深く感じ取ってもらえると思います。

     

    新聞紙で包んだみかんジュース

    みかんの名産地愛媛では、みかんジュース売り場に50社以上の商品が並び、視覚的な差別化が難しい状態になっています。その中において「印象に残るものを」とご依頼いただき、オリジナルの新聞紙で包むパッケージを提案しました。新聞紙のデザインの上に、鮮やかなみかんを大きな水玉模様のように配置しています。

     

    ___手作業で1本ずつ巻いたのですか?
     
    はい、新聞の折り位置がわかるように弊社側でサンプルをご用意し、みかん農家さんに1本ずつ巻いていただいています。
     
    ___苦労したことはありましたか?
     
    みかんの質感をツヤっと仕上げるために印刷の上に施す「UV厚盛加工」と、紙との相性が難しかったと聞いています。新聞紙に似た「タブロ」という紙は薄いため、そのままではUV厚盛加工ができません。そこで紙にセパレーター(シールの裏面にある剥離紙)をつけてから加工を行うという提案をいただき、印刷会社の工夫のおかげで実現に至りました。

     

    断面を見せるグリーティングカード

    紙の商社 竹尾が海外の顧客に送るグリーティングカード。色数が豊富な紙「マーメイド」を用いて制作しました。この紙は断面にまで色があることが特徴で、破った断面を生かしたデザインにしたいと考えました。以前「TAKEO PAPER SHOW」の商品紹介コーナーで、その場で紙を破り持ち帰ることができるという企画を実現したことが、発想の根底にあります。台紙となる二つ折りのカードの上に、色違いの紙を手で破って貼り重ねています。

     

    ___1枚ずつ色の出方が違うのでしょうか?
     
    はい。色の組み合わせによって仕上がりの印象が変わります。ちなみに紙と紙の隙間の形をよく見ていただくと……「T」「A」「K」「E」「O」の5種類があります。まぁ、受け取る方は5枚のうち1枚しかご覧にならないので、誰に向けた工夫なのかは分かりませんが……!(笑)

     

    ___このカードが年末に届いたら嬉しいですね。楽しいお話をありがとうございました。

    (取材協力:BULLET

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